江戸時代は「徳川が支配した均一な社会」だと思っていた
江戸時代というと、徳川幕府が全国を統治し、参勤交代によって各藩を抑え込んだ「安定した封建社会」というイメージを持っていました。各藩の殿様はいわば中央権力に従う「地方管理者」であり、幕府の命令に従って黙々と役割を果たしていたのだ——という漠然とした認識です。
その認識のせいで、江戸時代の各藩の歴史に特別な関心を向けてこなかったところがありました。「どうせ同じような体制の繰り返しだろう」という先入観が、探求の意欲を薄めていたのです。
幕末の混乱期に各藩がどう動いたかを知ることは、「歴史は大きな力が動かすもの」という見方に加えて、「個々の人間の判断と選択が歴史を作った」という実感を与えてくれます。本書を読んでから、幕末ものの小説や映像が以前よりずっと面白く感じられるようになりました。
この本が、その先入観を鮮やかに崩してくれました。
上杉・島津・山内——それぞれが「もう一つの日本史」を持っていた
本書は、上杉藩・島津藩・山内藩など全国25の大藩の殿様の履歴書を通じて、江戸時代の多様な権力構造と各藩独自の思想・政策を描き出した一冊です。それぞれの藩が置かれた地理的・歴史的条件の中で、殿様たちがどのような判断をし、どのような改革を試み、どのような思想を持っていたかが丁寧に読み解かれています。
特に印象的なのは、藩によって財政政策・農政・軍事整備の方向性がまったく異なるという事実です。幕府という共通の「上位権力」がありながら、各藩の殿様は独自の路線を歩んでいました。天保の改革を先駆けて行った藩、財政危機を独自の産業振興で乗り越えた藩——「天下泰平」の内側に、各藩固有の格闘の歴史があったのです。本書にはさらに、幕末維新を生き抜いた藩と消えた藩の差異についても分析されています。ぜひ本書で確かめてみてください。
「日本史」は一本ではなく、25本以上あった
この本を読んでから、江戸時代の見方が変わりました。「徳川幕府の時代」という一本の物語の中に、それぞれの藩固有の「もう一つの物語」が無数に走っていたのだということ——その複数性に気づいたとき、歴史の豊かさが実感できました。
「薩長が倒幕した」という幕末の結末も、「なぜ島津藩・毛利藩はその方向に動いたのか」という各藩の固有の事情として捉え直せるようになりました。歴史は一本の流れではなく、複数の藩の思惑と格闘が絡み合って生まれたものだという視点は、この本を読んで初めて持てたものです。
日本史・政治史の論客が読み解く「25藩の個性」
歴史学と政治学の両面から日本史を論じてきた八幡和郎が、25大藩の殿様の「履歴書」という切り口で江戸時代の多様性を描いた一冊です。見慣れた時代を新しい角度から読む楽しさが詰まっています。
この本を読まなければ、江戸時代を「均一な封建社会」として単純化したまま、各藩が持つ固有の歴史に目を向けることができなかったと思います。
幕末の混乱期に各藩がどう動いたかを知ることは、「歴史は大きな力が動かすもの」という見方に加えて、「個々の人間の判断と選択が歴史を作った」という実感を与えてくれます。本書を読んでから、幕末ものの小説や映像が以前よりずっと面白く感じられるようになりました。