← ブックフィード 新書嫁 PR

新書嫁レビュー ・ 約 3 分

「世界の工場」はずっと貿易赤字だった——大英帝国を支えた意外な稼ぎ方

大英帝国は「ものづくりで世界を制した」と思っていた

産業革命を起こし、「世界の工場」と呼ばれたイギリス。私はその姿から、優れた工業力で製品を世界中に売りまくり、その儲けで帝国を築いたのだろうと漠然と思っていました。強い国とは、たくさん作ってたくさん売る国だ、と。けれど、この単純な図式では、なぜその後もイギリスが長く影響力を保ち続けたのかが、どこかすっきりと説明できないまま引っかかっていました。この本を読んで、その思い込みは覆りました。世界の工場と呼ばれた時期でさえ、イギリスは貿易では赤字だったというのです。

稼ぎ頭は「もの」ではなく、海運・金融・投資だった

本書が示すのは、16世紀にはヨーロッパの二流国にすぎなかったイギリスが、なぜ世界を動かす帝国になり得たのか、という問いへの新しい答えです。鍵を握るのは、ヒト・モノ・カネ・情報を地球規模で巧みに動かす力でした。読者の声のなかにも「イギリスは世界の工場と言われた時期もずっと貿易赤字だった」と驚いたという感想があります。それでも帝国が成り立ったのは、海運や金融といったサービスで莫大な黒字を稼ぎ、海外へ資本を輸出して配当金を得続けたからだと本書は描きます。つまり、製品を売る力よりも、世界の取引そのものを取り仕切り、お金を循環させる仕組みを握っていたことが強さの源だったのです。時代が変わるたびに、稼ぎ方の重心を工業から金融やサービスへとしたたかに移していった柔軟さも、本書が描く帝国の姿のひとつです。こうした「帝国化」と「帝国経営」の実態が、最新のグローバルヒストリー研究をもとに、本書ではより踏み込んで読み解かれていきます。

一国の物語ではなく、世界のつながりとして見えてきた

この本を読む前、私は歴史を、それぞれの国が個別にたどった出来事の連なりとして眺めていました。イギリスはイギリスの、日本は日本の物語がある、という感覚です。けれど読み終えたいま、ある国の繁栄を、世界中の人やお金や情報のつながりの中で捉えるようになりました。ニュースで貿易摩擦や金融の話題に触れたとき、ものの輸出入だけでなく、その裏で動くサービスや投資の流れにも目が向くようになったのです。日本の貿易黒字や赤字を伝える報道を見ても、数字の符号だけで一喜一憂するのではなく、その国がどんな仕組みで稼いでいるのかを想像するようになりました。一国の強さは、何を作るかだけでなく、世界の流れのどこに位置取りするかで決まる。そう考えると、現代の国々のふるまいも、孤立した出来事ではなく、地球規模のつながりの中の一手として見えてきました。

この視点を知らないままでは、もったいなかった

イギリスの強さをものづくりだけで説明できると思い込んだままでいたら、私は歴史をずっと平板に眺めて終わっていたはずです。著者の秋田茂さんは、大阪大学の教授としてイギリス帝国とアジアの関係史を中心にグローバルヒストリーを研究し、2022年には紫綬褒章を受章した第一線の歴史家です。その研究の蓄積に裏打ちされた本書は、図版も多く、専門知識がなくても読み進められる一冊です。500年という長い時間を一本の流れとして見渡せたとき、歴史がぐっと面白く感じられました。歴史は暗記科目だと敬遠してきた方こそ、ぜひ本書でこの読み解き方を確かめてみてください。

この本を手に入れる

イギリス帝国盛衰史 グローバルヒストリーから読み解く (幻冬舎新書 708) 秋田 茂 / 幻冬舎新書

次の一冊 ── 同じ主題「歴史」

オスマンVS.ヨーロッパ (講談社選書メチエ 237) 新井 政美 / 講談社選書メチエ 書評を読む →

← ブックフィードに戻る

イギリス帝国盛衰史 グローバルヒストリーから読み解く (幻冬舎新書 708) Amazon 楽天