子どもの問題は、子どもを直せば解決すると思っていた
子育てがうまくいかないとき、私はずっと「子どもの態度をどう直すか」ばかり考えていました。言うことを聞かない、すぐ泣く、落ち着きがない。そのたびに子どもの側に原因を探し、しつけの方法を変えようとしていました。けれど何を試しても、心のどこかでずっとしっくりこないものが残っていました。直したいのは子どもの行動なのに、自分の苛立ちだけが積み重なっていく、あの感覚です。友田明美さんの『親の脳を癒やせば子どもの脳は変わる』を読んで、その違和感の正体が一気に見えました。順番が逆だったのです。
怒鳴り声は、しつけではなく脳への刻印になる
本書が突きつけるのは、日常的な暴言や夫婦げんかの怒鳴り声といった「マルトリートメント」、つまり避けるべき子育てが、子どもの脳の特定部位に物理的な影響を残しうるという研究結果です。叩くような明確な虐待でなくても、行為そのものが不適切なら子どもの発達を妨げる対象になる。多くの親が「これは虐待ではない」と思っている範囲に、その線が引かれているのです。さらに本書が踏み込むのは、その傷を負った親自身もまた、かつて怒鳴られて育った世代だという事実です。戦争を経験した世代の心の傷が、世代を超えて今の子育てに引き継がれている可能性にも触れられています。連鎖はどこかで誰かが断たないと続いてしまう。親もまた、かつては怒鳴られて萎縮した子どもだったかもしれない。そう考えると、ただ親を責めるだけでは何も解決しないことが見えてきます。では、どうすれば連鎖を断てるのか。本書の後半では、親自身が抱えてきたトラウマと向き合い、脳を「ポジティブ脳」へと変えていく具体的な支援のあり方が、より踏み込んだ形で展開されていきます。怒りに任せて声を荒げそうになる、その一歩手前で踏みとどまるための手がかりが、本書には用意されているのです。
焦りが消えたのは、責める相手がいなくなったから
この本を読む前の私は、うまくいかないたびに犯人を探していました。子どもか、自分か、配偶者か。誰かのせいにしないと気が済まなかったのです。けれど「親の脳もまた癒されるべき対象だ」という視点を得てから、夕食前の慌ただしい時間に子どもが言うことを聞かなくても、まず深呼吸して自分の状態を確かめるようになりました。子育てで大事なことの優先順位が、静かに入れ替わったのです。読者のなかには、自分の過去のつらさを乗り越えるために、本書をきっかけに専門的な治療へ一歩踏み出した方もいるといいます。以前の私なら、子どもがぐずるたびに語気を強めて「早くしなさい」と急かしていた朝の場面でも、今は先に自分の苛立ちの輪郭を確かめてから声をかけるようになりました。責めるのをやめて、まず自分をいたわる。その順番に変えただけで、家の空気から張り詰めたものが抜けていきました。子どもの表情も、心なしか柔らかくなった気がします。
知らないままだったら、ずっと子どもを責め続けていた
もしこの本に出会わなければ、私は今も「子どもさえ変われば」と思い込んだまま、出口のない苛立ちを繰り返していたはずです。著者の友田明美さんは、福井大学子どものこころの発達研究センターの教授・センター長を務め、ハーバード大学医学部で客員助教授として研究してきた小児神経科学の第一人者です。脳画像解析を通じて児童虐待と脳の発達の関係を解き明かしてきた研究者だからこそ、親を責めるのではなく癒すという視点に説得力があります。自分の怒鳴り声をしつけだと信じている人ほど、一度立ち止まる価値があると感じました。