ジョークは息抜きのための読み物だと思っていた
ジョーク集と聞いて、私が思い浮かべていたのは、移動中にくすっと笑って読み流す気軽な本でした。とりわけ「反米」と銘打たれていれば、超大国をからかって溜飲を下げるだけの娯楽だろう、と。けれど読み進めるうちに、笑いながらもどこか落ち着かない感覚が残りました。痛烈なジョークに思わず吹き出しながらも、笑い終えたあとに胸の奥がざわつく。これは本当に他国を笑っているだけの本なのか。その引っかかりに正面から答えてくれたのが、早坂隆さんの『世界反米ジョーク集』でした。
ジョークの背後にある、各国のアメリカ観
この本の本当の読みどころは、ジョークそのものよりも、その背後にある分析にありました。本書では、大量破壊兵器を口実にしたイラク攻撃、露骨な自国中心主義、深刻な人種差別、異様なまでの銃社会、肥満や訴訟といった内政問題が、笑いの裏側にある「病めるアメリカ」の核心としてあぶり出されていきます。一つの短いジョークが、長い解説よりも鋭く対象の本質を突くことがある。読者のレビューにも「一片のジョークが時として万言を費やす以上に本質を表す」という言葉がありましたが、まさにそれを実感する一冊です。複雑なものを相手にするときほど、笑いは強力な分析の道具になるのだと教えられました。本書には世界各地から集められたジョークと、その一つひとつに添えられた的確な読み解きがさらに数多く収められています。ただ笑うのではなく、笑いを通して一国の構造を見抜くとはどういうことか。その続きはぜひ本書で確かめてみてください。
「笑う側」から「映される側」に立場が変わった
この本を読んで、一番変わったのは自分の立ち位置でした。読み始めたときは、遠くの大国を笑う観客のつもりでした。けれど、メディアに危機感を煽られればたちまち世論が一方向へ流れる検証能力の低さ、安易な楽観論で大事を決めてしまう姿といった指摘に触れるうちに、これはそのまま日本人自身の姿でもあると感じ始めたのです。災害や事件のたびにテレビの報道に一喜一憂して、気づけば周囲とそっくり同じ方向を向いている自分を思い出しました。SNSで誰かを一斉に叩く流れに乗りかけたとき、ふと「これはあのジョークが笑っていた構図そのものではないか」と立ち止まれるようにもなりました。他国を笑っていたつもりが、いつの間にか自分の足元を点検させられている。読書の途中で立場がひっくり返る経験は、なかなか味わえないものでした。
知らないままでは、ただ笑って終わっていた
この本に出会わなければ、私はアメリカを笑い、満足して本を閉じていたはずです。著者の早坂隆さんは世界各地を取材してきたノンフィクション作家で、『世界の日本人ジョーク集』をはじめとするシリーズが累計百万部を超える書き手として知られています。世界を歩いて生のジョークを集めてきた人だからこそ、笑いの奥にある社会の構造まで見通せるのだと感じました。笑いは、対象を遠ざけて見下すためのものにも、自分を映し返す鏡にもなる。その両方を一冊で味わえるのが、この本の懐の深さです。読み終えたあとに残るのは、誰かを笑った爽快感ではなく、自分もまた笑われる側に立っているかもしれないという静かな自覚でした。笑いながら世界の今を、そして自分の足元を考えてみたい。そんな方にこそ手に取ってほしい一冊です。