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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

江戸はSDGsを300年先取りしていた——『循環』と『因果』で社会を作った日本の知恵

「江戸時代は身分制と鎖国に縛られた古い社会で、現代を生きる私たちが学ぶべきものはほとんどない」とずっと思っていた

江戸時代といえば、教科書で習う「身分制度」「鎖国」「封建社会」——前近代の制約に縛られた時代として、現代の自由と豊かさとは対比されるべき過去という位置づけが頭に固定されていました。江戸の文化や芸術は「趣味として楽しむもの」であっても、社会の作り方そのものから学べることがあるとは考えていませんでした。

でも、SDGsや持続可能性が叫ばれる現代において、エネルギー・水・廃棄物のすべてを地域内で循環させていた江戸社会の仕組みが注目されるニュースを目にするたび、「江戸=古い社会」という単純な図式では捉えきれない何かがあるのではないか——という直感はありました。

田中優子著『未来のための江戸学——この国のカタチをどう作るのか』を読んで、その直感の輪郭がはっきりしてきました。

江戸文化の本質は「循環(めぐる)」と「因果(原因と結果)」の価値観で、現代の持続可能社会のモデルが詰まっていた

著者が本書で示す核心は、江戸文化の本質が「江戸趣味」と呼ばれる表面の装飾ではなく、「循環(めぐること)」と「因果(原因と結果を検証して物事を決める)」という二つの価値観にあり、これこそが現代の持続可能な社会を構想する上で参照すべき原理だという視点です。著者は江戸時代研究の第一人者として、過去を懐古するのではなく、現代と未来の社会設計に江戸の知恵を架橋する試みを展開します。

特に印象的なのは、江戸が「世界随一の精緻な水資源制御システム」を持っていたという指摘です。玉川上水・神田上水という大規模な水道網、屎尿を肥料として農村に還す循環システム、古着・古紙・燭油を再利用する完全な循環経済——これらは「貧しさゆえの節約」ではなく、「資源は有限で循環するもの」という根本的な世界観から組み立てられた社会システムです。同時に、何か変えようとするとき「この変更で何が起きるか」を因果で検証する慎重さ——これも江戸社会の意思決定の特徴でした。現代社会が「成長」「効率」「直線的進歩」を前提にしているのに対し、江戸は「循環」「持続」「因果」を前提にしていた。本書にはさらに、江戸の社会の作られ方・終わり方・現代との差異の構造分析が詳しく描かれています。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。

「過去から学ぶ」とは何かが具体的にわかった

読む前と後で、歴史への向き合い方が変わりました。以前は歴史を「過去の出来事の記録」として、現代との連続性をあまり意識せずに読んでいました。でも今は、「過去の社会がどんな世界観で作られていたか」「その世界観は現代の課題に何を示唆するか」を問いながら歴史を読むようになりました。

具体的には、SDGsや脱炭素・循環経済といった現代の課題を考えるとき、「西洋発の最新理論」だけでなく、「日本の江戸社会が実際に運用していた循環システム」を一つの参照点として持てるようになりました。「成長を前提とする社会」と「循環を前提とする社会」は、世界の捉え方そのものが違う。この対比の中で考えると、現代の議論の前提自体が相対化できます。歴史を「ノスタルジー」ではなく「現代の課題への参照系」として読む眼が、本書を通じて獲得できました。

法政大学元総長・江戸文化研究の第一人者が、過去と未来を架橋する新しい江戸学を提示した

田中優子は法政大学元総長・名誉教授として江戸文化・近世日本文化を専門に研究してきた研究者です。『江戸の想像力』『江戸はネットワーク』など、江戸社会を多角的に読み解く著作を多数発表し、江戸学の第一人者として知られる著者だからこそ、本書では「過去の懐古」ではなく「未来の社会設計への架橋」という独自の射程が成立しています。

この本を読まなければ、江戸時代を「古い封建社会」として遠ざけたまま、循環と因果という持続可能な社会原理が江戸に詰まっていた事実と向き合う機会を持てないままでいたでしょう。

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未来のための江戸学 (小学館101新書 52) 田中 優子 / 小学館101新書

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