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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

自由貿易は常に正しいわけではない——デフレ下のTPPは雇用と賃金を壊す、と京大の経済学者は言った

「自由貿易は基本的に経済を豊かにするものであり、貿易協定への参加は前向きに評価すべきものだ」とずっと思っていた

経済学の入門書を読むと、自由貿易は「比較優位の理論」「Win-Winの取引」「効率化と豊かさ」という言葉で全面的に肯定されています。だから、TPP・FTA・EPAといった自由貿易協定への参加についても、原則として「賛成」「進めるべき」という姿勢が当然のものだと感じていました。反対する立場は「保護主義的」「時代遅れ」「既得権益の擁護」とラベリングされ、知的に劣った立場と暗黙裏に位置づけていました。

でも、なぜ世界各国で自由貿易反対の声が広がっているのか、なぜ自由貿易の進展と一部の人々の生活悪化が並行して起きているのか——という問いに、教科書的な自由貿易論では答えられないままでいました。

中野剛志著『TPP亡国論』を読んで、その問いへの答えが見えてきました。

デフレ下の貿易自由化は、需要不足を悪化させ、賃金と雇用を破壊する論理を持っている

著者が本書で示す核心は、自由貿易が常に経済を豊かにするわけではなく、特に需要不足と供給過剰が持続するデフレ経済下では、貿易自由化が実質賃金の低下と失業の増大を招きうるという、教科書的な自由貿易論が見落としている論理です。著者は経済学者として、TPP賛成論が前提とする「事実認識」自体に重大な誤りがあることを実証的に指摘します。例えば日本の平均関税率はアメリカよりも低く、「日本は閉鎖的で開国が必要」という常套句は事実に反します。

特に印象的なのは、自由貿易の効果が「経済の状態」に依存するという指摘です。需要が旺盛で雇用が逼迫している経済では、貿易自由化は効率化と成長をもたらします。しかし需要不足のデフレ経済では、海外との価格競争が国内の賃金引き下げ圧力を生み、企業は国内雇用を縮小して海外調達に移行する——結果として失業増・賃金低下・需要のさらなる縮小という悪循環を加速します。「自由貿易は常に正しい」という前提を疑い、「いつ・どんな経済環境で・誰に対して自由貿易が有効か」を問う視点が、本書の核心です。著者は世界の構造変化を踏まえ、戦略的な国際経済政策の必要性を論じます。本書にはさらに、グローバル化の中での日本の戦略・「真の開国」の意味が詳しく描かれています。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。

「自由貿易=善」という反射的な賛同が崩れた

読む前と後で、経済政策議論への向き合い方が変わりました。以前は「自由貿易」「規制緩和」「グローバル化」という言葉を聞くと、反射的に肯定的に反応していました。でも今は、「現在の経済環境は需要過剰かデフレか」「その政策で誰が利益を得て誰が犠牲になるか」を冷静に問う視点を持てるようになりました。

具体的には、新しい貿易協定の議論を聞いたとき、「自由貿易だから良い」と片付けず、「日本の現在の経済構造の中でこれは何をもたらすか」を考えるようになりました。経済学の教科書的な議論が「実際の経済の状態」を無視しがちな点に気づき、政策議論には経済理論と実証データの両方が必要だという認識が深まります。「経済の専門家が言うから正しい」という権威への反射的服従ではなく、論理を一つひとつ確かめる読み方が、本書を通じて訓練できました。

京都大学大学院助教・元経済産業省官僚が、経済学の前提から自由貿易論を問い直した

中野剛志は東京大学卒業後、エディンバラ大学で経済学・社会学の博士号を取得、経済産業省での実務を経て京都大学大学院工学研究科助教(当時)として産業政策・国際経済を研究してきた著者です。経済学の理論的訓練と政策実務の経験が結びついた立場から、本書では教科書的な自由貿易論を実証的に問い直す射程が成立しています。

この本を読まなければ、自由貿易を反射的に肯定したまま、デフレ下での貿易自由化が雇用と賃金を破壊する論理と向き合う機会を持てないままでいたでしょう。

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TPP亡国論 (集英社新書) 中野 剛志 / 集英社新書

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