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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

早期教育の「科学的根拠」が、実は根拠ではなかった

赤ちゃんへの早期教育は、脳の発達に有利だと思っていた

「生後3か月から音楽を聴かせると、脳の発達に良い」「臨界期を過ぎると、言語の習得が著しく難しくなる」——育児書やニュースで繰り返し流れてきたこうした言葉を、根拠のあるものとして長年受け取っていました。だから早期教育を行う親は正しいことをしていて、何もしない親は子どもの発達機会を逃しているのかもしれない——そんな不安が、子育て中の多くの人の心のどこかに棲みついています。子どもの将来のために何かしてあげなければという焦りは、しばしば「早く始めるほど良い」という言説と結びついて、育児を息苦しいものにしていきます。でもこの本を読んで、その「科学的根拠」そのものが根本から問い直されていることを知りました。

「普通の育児」こそが、最も脳に良いという逆転

著者の小西行郎は京都大学医学部を卒業後、新生児医療・発達行動学・脳科学の分野を長年研究してきた小児科医です。オランダのフローニンゲン大学で発達行動学を学び、東京女子医科大学で乳児行動発達学講座を開設、さらに同志社大学赤ちゃん学研究センター教授として「赤ちゃん学」という新しい学問領域の確立に尽力してきた人物です。

本書の出発点は、「科学的根拠があると言われている育児情報を、もう一度科学的に検証する」という姿勢です。早期教育の根拠として語られてきた「臨界期」「神経ダーウィニズム」「胎教の効果」——これらが実際の科学的知見とどう対応しているかを、著者は丁寧に検証していきます。その結論は明快です。「普通の育児」こそが重要であり、過剰な早期教育の多くは科学的裏付けを欠いていると指摘しています。第3章「生後2ヶ月革命」では、赤ちゃんの発達において生後2ヶ月前後に起きる劇的な変化が脳科学の視点から描かれています。赤ちゃんの何気ない表情の変化が、実は驚くべき神経発達の証拠であることも、本書が明かす発見のひとつです。ぜひ本書で確かめてみてください。

「不安を売りにした育児情報」という構造が見えた

この本を読む前、育児に関わる情報の多くを「知識」として受け取っていました。テレビで専門家が言っていること、売れている育児本に書いてあること——それを疑う視点を持っていませんでした。読み終えた後は、育児情報に触れるたびに「これは本当に科学的に検証されているのか」という問いが自然に浮かぶようになりました。

「いい育児しよう症候群」という著者の言葉が刺さりました。現代の育児を取り巻く不安の多くが、実は科学的に根拠の薄い言説によって煽られているという事実は、育児中の方だけでなく、育児情報を発信する側にいる人にも届いてほしいと感じます。子どもの前で穏やかでいられることが、脳科学的に見ても意味がある——そのことがわかってから、日常の関わり方に対する気持ちが少し軽くなりました。

不安を煽る情報の手前に、この本がある

日本の新生児医療・発達神経学の第一線を歩んできた小西行郎だからこそ書ける視点がこの本にはあります。現場で赤ちゃんの発達を長年見てきた小児科医の言葉は、育児をめぐる不安のノイズを静かに鎮めてくれます。「科学的」という言葉に弱い現代の育児文化に対する、誠実な反論がここにあります。育児中の方にはもちろん、育児を周囲から見ている立場の方にも、赤ちゃんの発達の本質を知るために読んでほしい一冊です。

この本を読まなければ、早期教育の「根拠」を一生疑わなかったかもしれません。

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赤ちゃんと脳科学 (集英社新書) 小西 行郎 / 集英社新書

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