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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

AIに仕事を奪われる——その不安、本当は何を恐れているのか

AIが仕事を奪う、という話だと思っていました

AIが進化すれば、人間の仕事は次々と機械に置き換えられていく。私はこの本のタイトルを見たとき、そういう未来予測の本だろうと思い込んでいました。単純作業は奪われるから、これからは創造的な仕事をするしかない。そんな漠然とした焦りを抱えながらも、その焦りがどこか地に足のつかないものに感じられて、ずっと落ち着かずにいたのです。その認識を、本書は静かに、しかし根本から問い直してきました。

問うべきは未来予測ではなく、「労働とは何か」だった

本書が向き合うのは、AIがどの職業を奪うかという予測ではありません。著者が眼目に置くのは、私たちがこの問題を考えるとき、すでにどんな知的な道具立てを手にしているのかを点検することだとされています。そのために本書は、アダム・スミスやヘーゲル、そしてマルクスといった古典的な思想家が「労働」をどう捉えてきたかをたどり直していきます。機械が人の仕事を奪うという不安自体が、実は古くて新しい問題であり、AIのインパクトがこれまでの機械化と地続きなのか、それとも決定的に違うのかを、労働という概念そのものから考え直そうとするのです。本書の章立てを見ると、「経済学と機械――古くて新しい問題」のように、機械化をめぐる過去の議論をたどる項目が並んでおり、人が機械に対して抱いてきた感情の根が掘り下げられていきます。こうした思想の系譜が、やがて資本主義そのものへの問いへとつながっていく様子が、より踏み込んだ形で展開されています。AIに仕事を奪われるという心配の奥には、そもそも人はなぜ働くのか、働くことに何を求めてきたのかという、ずっと大きな問いが横たわっている。本書はその問いを、慌てず順を追って解きほぐしていきます。読み進めるうちに、自分が漠然と抱えていた不安の輪郭が、少しずつはっきりしてくる感覚があります。

「労働とは何か」を考えてから、焦りの質が変わった

知る前の私は、AIのニュースを目にするたびに、自分の仕事が何年もつだろうかと数えるような不安を抱えていました。新しいサービスが発表されるたびに、置き換えられる職業のリストを思い浮かべては気をもんでいたのです。けれど読んだ後は、その問いの立て方そのものが変わりました。職を失うかどうかという目先の心配から、自分にとって働くこととは何を意味するのかという、もう少し奥の問いへと視点が移っていったのです。すると、ニュースの見出しに一喜一憂することが減り、技術の話を落ち着いて受け止められるようになりました。同僚とAIの話題になったときも、脅威か味方かという二択ではなく、私たちは労働に何を求めているのだろうという角度から話せるようになった。漠然とした焦りが、考えるに値する問いへと姿を変えたとき、世界の見え方が一段深くなったように感じています。

知らないままだったら、輪郭のない不安に振り回されていた

この本を読まなければ、私はAIへの不安を、ただの感情のままに抱え続けていたはずです。著者の稲葉振一郎さんは、明治学院大学社会学部の教授で、専門は社会哲学・社会倫理学とされています。思想史を腰を据えて読み解いてきた研究者だからこそ、流行の言葉に流されず、問題の根を掘り下げる視点を示せるのだと感じます。なお本書は労働を主題にした哲学書であり、最新のAI技術を解説する本ではない点は、読む前に知っておくとよいかもしれません。AIへの不安の正体を、一度きちんと言葉にしてみたい方に向く一冊です。

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AI時代の労働の哲学 (講談社選書メチエ 711) 稲葉 振一郎 / 講談社選書メチエ

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