「ネットは顔が見えないから危ない」と思い込んでいた
画面の向こうにいるのが誰なのかわからない。だからネットショッピングは怖い。長いあいだ、私はそう信じていました。クレジットカードの番号を打ち込むたびに、どこかで「本当に大丈夫だろうか」という小さな不安が消えず、便利だとわかっていても、心のどこかがしっくりこないままでした。ところがこの本を読んで、その不安の正体がまったく別のところにあったと気づかされました。
「ネット」だから危ないのではなく、もともと通信販売だった
著者がまず示すのは、ネットショッピングとは電話やカタログから手段が変わっただけの、昔ながらの通信販売にすぎないという視点です。つまり、対面でない取引につきまとう危険は、インターネットが生んだ新しい脅威ではなく、以前から法律が想定してきた問題だというのです。だからこそ、こちらを守るルールもすでに存在しています。本書では、被害を感じたらまずどこへ連絡すべきか、その答えとして消費者センターという具体的な窓口が挙げられます。警察でも、いきなりの弁護士でもない。この一点だけでも、漠然とした不安が「対処できる手順」に変わっていきます。印象的なのは、個人を相手にした取引の危うさを語る場面です。たとえ法律上こちらが正しくても、裁判にかかる費用が商品の値段を上回ってしまえば、追及そのものが割に合わなくなる。危険なのは「ネットだから」ではなく「相手が個人だから」だという指摘は、なんとなく感じていた不安に輪郭を与えてくれました。本書にはさらに、被害にあったときの動き方や弁護士への依頼のしかた、そして著者が考える「ネット社会の消費者のための七つのルールと三つの前提」まで、踏み込んだ話が展開されます。何を恐れ、何を恐れなくていいのか。その線引きが、読み進めるほど鮮明になっていきます。
「漠然とした怖さ」が「具体的な備え」に変わった
この本を読む前の私は、ネットでの買い物を、運に身を任せるような感覚でとらえていました。トラブルが起きたら泣き寝入りするしかない、と。けれど読んだあとは、注文ボタンを押すときの心持ちが変わりました。たとえば送料の表示が曖昧なサイトや、返品条件がどこにも書かれていない店を見ると、以前なら「まあ大丈夫だろう」と流していたところで、立ち止まって確認するようになりました。怪しい業者の見分け方を意識し、いざというときの相談先を知っているという安心感が、根拠のない警戒心を静めてくれたのです。「自分の身は自分で守る」という当たり前の構えが、初めて具体的な行動として手に入った感覚でした。安全は誰かがタダで守ってくれるもの、という思い込みがほどけたとき、ネットの世界はむしろ扱いやすい場所に変わりました。便利さの裏にある落とし穴を知っているからこそ、安心してその便利さを受け取れる。そんな逆説的な手応えが残りました。
知らないままなら、ずっと「なんとなく怖い」が続いていた
もしこの本に出会わなければ、私はこれからも理由のわからない不安を抱えたまま、ネットでの買い物を続けていたはずです。著者の紀藤正樹さんは、消費者問題に長く取り組んできた弁護士です。法律の専門家が、脅すのでも煽るのでもなく、淡々と「こうすれば守れる」と道筋を示してくれるからこそ、その言葉は静かに信頼できます。なんとなく怖い、という感覚を抱えたままの方こそ、その正体を確かめてみる価値があります。