← ブックフィード 新書嫁 PR

新書嫁レビュー ・ 約 3 分

「同じ気持ちになろうとしている、それは間違い」――ある一言が刑事を変えた

共感とは、相手と同じ気持ちになることだと思っていました

「相手の気持ちに寄り添う」とは、相手と同じ気持ちになろうとすることだと、私はずっと思っていました。誰かの悩みを聞くときも、仕事で相手の要望を引き出すときも、「わかるよ」「つらいよね」と共感を示すことが一番の近道だと信じていました。それでも人との対話がうまくいかない場面はたびたびあって、何が足りないのか、自分でもうまく言葉にできずにいました。佐々木成三の『刑事だけが知っている「対話する力」』を読んで、その前提は根底から崩れました。

「あなたは私たちと同じ気持ちになろうとしている。でも、それは間違い」

その原点として本人がたびたび語っているのが、刑事時代のある出来事です。埼玉県警の捜査一課で刑事として働いていたころ、ある被害者遺族の母親からこう言われたといいます。「成三くんは私たちと同じ気持ちになろうとしているでしょ。でも、それは間違いだから」。その母親が本当に求めていたのは、事件が起きた特別な日の共感ではなく、何もない日の朝に「体調はどうですか」と電話をかけてくるような、ごく日常的な関わりだったといいます。この一言で、それまで積み上げてきたコミュニケーションの前提が崩れ落ちる感覚があったと本人は振り返っています。事件のさなかにどう訊けば被疑者が真相を語るか、協力者からどう情報を引き出すか、そうした捜査の現場で磨かれてきた「訊く技術」「聞く技術」が、本書にはさらに具体的な場面とともに紹介されています。その中身は、ぜひ本書で確かめてみてください。

「共感しよう」とする前に、一歩引いて相手を見るようになった

この本を読む前は、相手の話を聞くときほど「自分も同じ気持ちだ」と伝えることに必死になっていました。読んだ後は、共感を急いで示すより先に、相手が本当に求めているものは何かを一歩引いて考える癖がつきました。友人の相談を受けるときも、職場で意見の違う相手と話すときも、「わかるよ」と言う前に、相手が欲しいのは同調なのか、それとも別の何かなのかを考えるようになりました。対話の質が変わったのは、共感の量を増やしたからではなく、共感の手前で立ち止まる時間を持てるようになったからだと感じています。

知らなければ、ずっと「共感=同じ気持ちになること」だと思い込んだままだった

著者の佐々木成三は、埼玉県警察に22年間勤務し、捜査第一課ではデジタル捜査班の班長としてデジタル証拠の解析を担当した元刑事です。事件が起きるたびに被害者と遺族が生まれる現実に向き合い続けた末、2017年、40歳の春に「犯罪を生まない環境を作りたい」という思いから退職し、以降はテレビのコメンテーターとして凄惨な事件を扱いながらも、視聴者に不必要な不安を与えない語り口で知られています。現場で積み重ねた経験に裏打ちされた言葉だからこそ、重みが違います。もし読んでいなければ、私はいまも「共感とは同じ気持ちになることだ」と思い込んだままだったはずです。

※本記事にはアフィリエイトリンク(PR)が含まれます。

この本を手に入れる

刑事だけが知っている「対話する力」 佐々木 成三 / 小学館新書

次の一冊 ── 同じ主題「法・犯罪」

ヤクザ式 図太く生きる心理術 (イースト新書Q) 向谷匡史 / イースト新書Q 書評を読む →

← ブックフィードに戻る

刑事だけが知っている「対話する力」 Amazon 楽天