福祉は、弱い立場の人だけが使うものだと思っていた
福祉という言葉を聞くと、介護施設や障害者支援、生活保護といったイメージが浮かびます。自分には関係のない話、あるいはいつかお世話になるかもしれないもの——そんな距離感を持っていた時期が長くありました。福祉とは「困っている人を助けるための制度」であり、元気で働いている自分とは縁遠いものだという感覚です。誰かが転んだときに差し伸べる手のようなもの、善意の話であり義務ではない、そんな曖昧な理解のまま大人になりました。でもこの本を読んで、その認識が根本から変わりました。福祉は弱者への施しではなく、「人が人として生きることを社会全体で支える仕組み」だったのです。その誤解を抱えたまま生きていると、自分が社会の一員であるという感覚がどこかぼんやりとしたまま、当事者意識を持てずにいることに気づかないでいます。
「なぜ社会は福祉を必要とするのか」という根本の問い
本書が他の福祉入門書と違うのは、制度や手続きの説明から入るのではなく、「そもそも社会に福祉が必要な理由」という根本の問いから始まる点です。高齢化・家族の変容・格差の拡大——これらは決して一部の人だけの問題ではありません。誰もが人生のある時点で、何らかの支援を必要とする可能性があります。
著者の古川孝順は、東洋大学ライフデザイン学部教授として社会福祉学を長年研究し、元日本社会福祉学会会長も務めた、この分野の第一人者です。1942年生まれで、日本社会事業大学・東京都立大学大学院で学んだのち、長いキャリアを通じて日本の社会福祉学の理論的基盤を作ってきた研究者です。本書では社会福祉の歴史的な成り立ちから現場での支援の実際まで、7つの章にわたって丁寧に解説されています。「社会福祉のサービスプログラム」「社会福祉を利用する」といった各章では、制度の仕組みが具体的な場面と結びついて説明されており、抽象的な概念が自分の生活と地続きのものとして感じられてきます。本書には社会福祉の現場でどのような援助が行われているかについても詳しく書かれています。ぜひ本書で確かめてみてください。
「自分も社会の一部だ」という当事者意識が芽生えた
読む前の自分は、福祉を「税金で運営される他人への支援」として捉えていました。善意の問題であり、関心があれば寄附や支援をすればいい、という感覚でした。でも読み終えた後は、その認識が変わりました。福祉は社会の設計の問題であり、自分が今どんな立場にいるかに関わらず、すでにその恩恵を受けながら生きているのだという事実に気づきました。
日常の中でニュースを見るとき、社会保障費の話や医療制度改革の話が、以前より自分ごととして読めるようになりました。「財政の問題」としか見えていなかった話題が、「自分の生き方に関わる問題」として見えてくる。政策の賛否を論じる前に、そもそも何のための制度なのかを理解していなければ、議論の土台に立てない——そのことに、改めて気づかされました。
読まなかったら、ずっと傍観者のままだった
高齢社会が進み、社会保障制度への関心が高まる今の時代に、福祉の基本を理解しておくことの価値はかつてないほど大きくなっています。本書はジュニア新書というシリーズに収録されていますが、その内容は大人が読んでも十分に学べる密度を持っています。福祉について「何となくわかっているようで、実はよくわかっていない」という感覚を抱えたことがある人には、特に届く一冊です。
この本を読まなければ、福祉をずっと「他人事」として眺め続けていたと思います。自分の生活の中に福祉がすでに組み込まれていることに気づかないまま、社会の仕組みを半分だけ理解した状態でいたはずです。