「経済問題は資本主義の問題、政治問題は国家の問題、民族対立はナショナリズムの問題と、それぞれ別々に考えればいい」とずっと思っていた
格差の問題は経済政策の問題、戦争は国家の問題、民族紛争はナショナリズムの問題——それぞれ専門家が別々に分析し、別々に解決策を探るものだという感覚がありました。政治と経済と文化は絡み合っているようで見えても、根本的な問題は異なるという前提がありました。「資本主義の批判」といえばマルクス主義、「国家批判」といえば無政府主義、「ナショナリズム批判」といえば多文化主義——それぞれ別々の知的伝統として受け取っていました。
でも、世界の問題を見ると、経済格差・国家権力・ナショナリズムが常に絡み合って問題を複雑にしている感覚がありました。それらを一つの枠組みで説明できる理論があるのかという問いを、漠然と持ちながらも答えを見つけられていませんでした。
柄谷行人著『世界共和国へ』を読んで、その問いへの強力な枠組みがわかりました。
資本・ネーション・国家は三位一体として機能し、相互に支え合って人間を縛っている
著者が本書で示す核心は、資本(商品交換)・ネーション(互酬的な共同体感情)・国家(支配と保護の関係)は、それぞれ独立した問題ではなく、「交換様式」という概念で統一的に分析できる三つの力であり、現代社会においてこの三者は「資本=ネーション=国家」として一体的に機能しているという事実です。
この枠組みの鋭さは、なぜ資本主義批判だけでは世界は変わらないのかを説明することにあります。資本主義を批判してもネーション(民族感情・共同体への帰属意識)と国家が温存される限り、別の形の支配が生まれます。逆に国家を批判しても資本とネーションが残れば、国家は別の形で復活します。著者はカントの「永遠平和論」を引き継ぐ形で「世界共和国」という構想を提示しますが、それは理想論ではなく「交換様式D」(互酬的だが強制なき関係)の歴史的な萌芽を現実の中に探す作業です。本書にはさらに、世界帝国・世界経済の歴史的変遷と、そこから世界共和国への可能性が論じられています。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。
「社会の問題を見る眼」が根底から変わった
読む前と後で、社会問題への向き合い方が変わりました。以前は経済問題・政治問題・民族問題を別々のニュースとして受け取っていました。でも今は、「これは資本・国家・ネーションのどの力が働いているのか、それらがどのように絡み合っているのか」という問いを持つようになりました。
具体的には、ある国でナショナリズムが高まるとき、「それは経済格差への不満が民族感情の形で表現されているのではないか」という問いを立てられるようになりました。また、「資本主義を変えれば問題は解決する」という主張に対して、「でもネーションと国家が温存されれば別の支配が生まれる」という反論の根拠を持てるようになりました。世界の問題を三つの軸で見ることで、バラバラに見えた出来事が一つの構造として理解できるようになります。
日本を代表する世界的思想家が、資本・ネーション・国家を超える構想を新書で提示した
柄谷行人(1941年生まれ)は文学批評から出発し、「マルクスその可能性の中心」「日本近代文学の起源」などで国際的に高い評価を受けた日本を代表する思想家です。2022年にはルーマニアのスピノザ賞(哲学分野の最高賞の一つ)を受賞しました。本書は「トランスクリティーク」「世界史の構造」へとつながる思想的体系の出発点として、複雑な理論を新書という形式で平易に提示した入門書です。
この本を読まなければ、資本主義・国家・ナショナリズムを別々の問題として扱ったまま、三者が一体として機能する構造と、それを超える可能性への思考と向き合う機会を持てないままでいたでしょう。