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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

「哲学は現実と無縁な抽象論だ」という思い込みが、最も根本的な問いへの扉を閉ざしていた

「哲学は現実生活とは縁のない抽象的な学問だ」とずっと思っていた

哲学とは、現実には役立たない言葉遊びと机上の空論の世界だと思っていました。ハイデガーという名前は聞いたことがあっても、「難解で近づきがたい」という印象だけが先行し、自分の人生に関係する話だとは思えませんでした。哲学書を開いてすぐに閉じた経験は何度もありました。

でも、「自分は今ここにいる」という当たり前の感覚が、実はどれほど不思議なことかと立ち止まった瞬間がありました。なぜ何もないのではなく何かがあるのか。「存在する」とはそもそも何を意味するのか。その問いに答えようとすると、言葉が尽きる感覚がありました。

木田元著『ハイデガーの思想』を読んで、その問いが哲学史上最大の問いだったことを知りました。

「存在するとはどういうことか」——この問いが2500年の哲学を貫いていた

本書が明かすのは、ハイデガーが問い続けた「存在の意味」という問いの根本性です。ハイデガーは主著『存在と時間』で「存在するとはどういうことか」という問いを哲学の根本問題として復活させます。私たちは毎日「ある」「ない」「存在する」という言葉を使いながら、その意味を問わないまま生きています。しかしその問いに真剣に向き合うとき、私たちの意識の底にある当たり前の前提が揺らぎ始めます。

著者は、ハイデガーをアリストテレス以来の哲学史の延長線上に位置づけながら解説します。ハイデガーの「現存在(ダーザイン)」——この世に投げ込まれた存在としての私たち——という概念が、日常の不安・退屈・死への意識という身近な感覚と結びついていることを丁寧に示します。本書にはさらに、ハイデガーがなぜナチスに加担したのか、その思想との接点を探る章も含まれます。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。

「なんとなくモヤモヤする」という感覚に、哲学的な名前がついた

読む前と後で、日常の「漠然とした不安」への向き合い方が変わりました。以前はそれを心理的な問題として捉えていました。でも今は、「投げ込まれた存在」として世界に存在することの根本的な不確かさが、その不安の底にあるという認識を持てるようになりました。

具体的には、朝目が覚めたとき、「なぜ自分はここにいるのか」という問いが浮かびます。以前はそれを無駄な問いとして払いのけていました。今はその問いを持ち続けることが、自分の存在を真剣に引き受けることの始まりだという感覚があります。哲学が「役に立たない」と思っていたのは、問いの立て方が違っていたからかもしれません。答えを求めるためではなく、問うこと自体を真剣に行うことが、存在を引き受けることの一形態だ——そういう感覚が、この本を読んでから生まれました。

ハイデガー研究の第一人者が、誰にでも届く言葉で難解な思想を解きほぐした

木田元(1928-2014)は中央大学名誉教授で、日本を代表するハイデガー研究者です。「難解なものを難解なまま書くのは仕事ではない」という姿勢で一貫した著者の解説は、哲学の予備知識のない読者にも届く平易さを持ちながら、思想の核心を失わないバランスで高く評価されています。

この本を読まなければ、ハイデガーを「難解な哲学者」という遠い存在として眺め続け、存在への問いが日常のただ中にあることを見落としていたでしょう。

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ハイデガーの思想 (岩波新書 新赤版 268) 木田 元 / 岩波新書 新赤版

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