「南北戦争で奴隷制度は廃止された」という事実を、物語の終わりとして理解していた
リンカーンが奴隷解放宣言を出し、南北戦争が終わり、黒人は自由になった——アメリカの歴史をそう理解していました。1865年の戦争終結は差別の終わりへの出発点として教えられ、その後は少しずつ平等が実現していったのだと思っていました。公民権運動も「まだ残っていた差別」を取り除く運動だと理解していたので、奴隷解放以後の100年間の現実の深刻さを、十分に見えていませんでした。
でも、21世紀の今もアメリカの黒人差別問題が深く続いているというニュースを見るたびに、「なぜ160年経ってもこれほど根深いのか」という疑問がありました。その問いへの答えが、長い間つかめないままでいました。
本田創造著『アメリカ黒人の歴史』を読んで、その問いの構造が見えました。
奴隷解放後も、経済の論理が差別を温存し続けた
本書が明かす事実は、奴隷解放後の歴史の深刻さです。南北戦争で法的に奴隷制度は廃止されましたが、資本主義の論理が黒人を安い労働力として必要とする構造を変えなかった。農園主から農場小作人へ、そして都市の最底辺労働者へ——形は変わっても、経済的な従属関係は別の形で続きました。人種分離法(ジム・クロウ法)が南部に整備されたのも、法的平等とは別に差別を制度化するための仕組みでした。
「歴史は常に勝者・強者によって紡がれる」という読者の感想が、この本の核心をついています。教科書的な奴隷解放の物語は北部の視点からの勝者の歴史であり、その後も続いた黒人の苦闘の現実を覆い隠していました。本書は植民地時代から公民権運動まで、その全体を連続した一本の線として描き出します。本書にはさらに、公民権闘争以降の「黒人革命」と現代のアメリカ黒人の状況を論じる章も続きます。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。
アメリカのニュースを見るときの「背景」が変わった
読む前と後で、アメリカのニュースの読み方が変わりました。以前は「またこの問題か」と消耗していた差別関連のニュースが、今は長い歴史の文脈の一点として見えるようになりました。
具体的には、警察による暴力や制度的差別のニュースを見るとき、「なぜこれが繰り返されるのか」という問いが腑に落ちるようになりました。それは個人の悪意の問題ではなく、150年以上かけて積み重なった構造的な問題であり、一世代では解決できない深さを持っている。その理解が、怒りや諦めの前に、歴史的認識として問いを持てるようにしてくれました。現在進行形の問題は、突然生まれたのではなく、長い歴史の積み重ねの上にある。そのことを知るだけで、問題の深さへの敬意と粘り強さが生まれる気がします。
東大のアメリカ経済史研究者が、一世紀以上の苦闘を一冊に凝縮した
本田創造(1924-)は東京大学経済学部を卒業し、アメリカ社会・経済史を専門とする研究者です。長年にわたるアメリカ研究の蓄積から生まれた本書は、黒人解放の歴史を経済的・社会的な視点で捉えた包括的な一冊として、1991年の刊行以来読み継がれており、内容は色褪せず、現代のアメリカを理解するための基礎的な一冊であり続けています。
この本を読まなければ、「奴隷解放で問題は解決されるはずだった」という誤解のまま、その後の100年の現実を見落としていたでしょう。