古代の天文記録は「神話や占い」のためのものだと思っていた
ずっと古代の人々が星を観察していたのは、農業の暦を作るためや、神話・占いに使うためだと思っていました。現代の天文学とは切り離された、宗教的・神話的な営みとして古代の天文が存在していた——そんな漠然としたイメージがありました。しかしそのイメージでは、古代文献に克明に記録された日食や彗星の記述が、現代の天文学的計算と驚くほど正確に一致するという事実が、どこかしっくりきませんでした。
その謎を解き明かしてくれたのが、斉藤国治著『星の古記録』でした。
平安時代の記録が、現代の天文計算で「証明」された
本書で著者・斉藤国治が行ったのは、東西の古典文献に記された日食・星食・流星・彗星・超新星の記録を、現代の天文学的計算で一つ一つ検証するという作業です。藤原定家の『明月記』に記録された「客星(きゃくせい)」の記述——これは現在のかに星雲の起源となった超新星爆発に対応することが、斉藤の計算によって確認されています。1054年に爆発した超新星が、平安時代の公卿によって正確に記録されていたのです。
本書はさらに、ハレー彗星の歴史的記録、古代中国の「シリウスは赤かった」という記述が現代の星の進化論と合致するかという問いなど、古記録と現代天文学が交差する驚くべき場面を次々と描きます。ぜひ本書で確かめてみてください。
「古い記録」が「現代の知識」と響き合う体験
この本を読んでから、古典文学や歴史文書を読むとき、そこに記された「異常な天文現象」の記述への関心が高まりました。以前は「不思議な星が現れた」という記述を、迷信や誇張として流し読みしていましたが、今は「これは現代の計算で確認できるのかもしれない」という視点で読むようになりました。歴史と科学が意外な形でつながる喜びを、日常の読書の中で感じられるようになりました。
「古天文学」という新しい学問を作った研究者
斉藤国治は東京大学東京天文台教授を定年退官後、古代の天文記録を現代の天文学で検証する「古天文学」という分野を日本で切り開いた研究者です。「古代人は星を神話の素材としてしか見ていなかった」という思い込みを持ったまま生きていたら、千年前の記録が現代科学と対話するという、知的な驚きに今も出会えなかったと思います。