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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

イスラームは「禁欲と戒律の宗教」だとずっと思っていた

厳格なルールの宗教という思い込みが、ずっとあった

イスラームという言葉を聞くと、断食、礼拝、厳しい戒律という言葉が浮かびます。西洋哲学とは対極にある、論理よりも信仰を優先する世界——そんな先入観を長い間抱いていました。しかしその認識は、哲学としてのイスラームの姿をまったく見ていなかったのだと、この本を読んで気づかされました。イスラームは、きわめて精緻な哲学体系を持つ思想の世界でもあったのです。

「神は一つ」という言葉の奥にある、深淵な哲学的宇宙

イスラームの神秘主義(スーフィズム)を代表する思想家、イブン・アラビーの「存在一性論」。聞き慣れない言葉ですが、その内容は驚くほど精緻なものです。「すべての存在は、究極的には一つである」——この命題を哲学的に徹底して追求したのが、13世紀のイスラーム哲学者イブン・アラビーであり、本書はその思想構造を丁寧に読み解きます。

著者の井筒俊彦氏は、1914年生まれ。アラビア語を習い始めてわずか1か月でコーランを読破したといわれるほどの語学の天才で、ペルシア語、ヘブライ語など30数言語を駆使して東西の古典を原典で読み解いた人物です。本書はその井筒氏が、スーフィズムと哲学の関係、神秘体験における意識の構造、そして「存在とは何か」という根本問題に、イスラームの視点から切り込みます。仏教の空、老荘思想の「無」と共鳴するイスラーム哲学の姿を描き出し、「東洋思想には普遍的なパターンがある」という大きな視野を提示しているのです。本書の第二部では、存在顕現の形而上学として、さらに深い議論が展開されています。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。

「知らない哲学」が、自分の思考の枠を広げてくれた

この本を読む前の自分は、哲学といえば西洋のものだと無意識に思い込んでいました。デカルト、カント、ヘーゲル——哲学の歴史はヨーロッパに始まり、ヨーロッパで深化したものだという前提が、染みついていたのです。しかしイスラーム哲学に「存在とは何か」を問い続けた壮大な思索の歴史があることを知ると、その枠組み自体が揺らぎました。

日常の場面で言えば、ニュースでイスラーム圏の話題を目にするたびに、以前は「戒律の厳しい宗教の国」という印象が先に立っていました。しかし今は、そこに千年以上にわたる哲学的思索の歴史が積み重なっていることを知っています。同じニュースを見ても、受け取り方がまるで違う。「知らなかった」ことで、自分がいかに狭い世界観で世界を見ていたかが、鮮明になりました。

この本を読まなければ、西洋哲学しか哲学でないと思い続けていた

イスラームを「哲学の場」として見ることは、日本ではまだ一般的ではありません。その意味で本書は、多くの読者にとって未知の思想地図を描いてくれる一冊です。入門書と銘打っていますが、その内容は本格的な哲学書の水準にあり、読み応えは十分です。30数言語に通じ、イスラームから仏教、老荘まで東洋思想全体を俯瞰した井筒俊彦氏だからこそ書ける視点が、随所に光っています。

「世界にはこういう思想がある」と知ることは、自分の思考の自由度を上げることでもあります。西洋哲学の枠だけで物事を考えていた自分が、少し広い場所に立てるようになった感覚があります。

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イスラーム哲学の原像 (岩波新書) 井筒 俊彦 / 岩波新書

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