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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

数学が苦手な子は、教え方が間違っていたのかもしれない

数学が得意か苦手かは、生まれつきの才能で決まると思っていた

算数・数学が苦手な子どもがいる一方、同じ授業を受けて楽々と理解する子どもがいる——この差は「頭の向き不向き」や「数学的センス」の問題で、才能のない子には限界があると思っていました。「自分も小学校の分数の割り算あたりから怪しくなった」という感覚を持つ大人は多いですが、それを「教え方の問題」として捉えたことはなかった。しかし遠山啓はこの本で、数学を苦手にさせているのは子どもの側ではなく、明治以来変わっていない教え方の側だと言い切ります。

「分数の割り算」がわからない本当の理由

遠山啓が問題にするのは、数学教育が「量」の概念から始めていないことです。「2÷(1/2)=4」という計算は、「1/2が2の中にいくつあるか」という量の問いに答えるものです。しかし多くの教科書は「割る数を逆数にして掛ける」というルールを先に教え、なぜそうするかを後回しにする。ルールを覚えれば計算できるが意味はわからない——意味がわからないから少し形が変わると応用できない、という悪循環が生まれています。

「量から始めよ」というのが遠山の主張の核心です。「3メートルの何倍が6メートルか」という量の問いを体感として持っている子どもは、「6÷3=2」の意味を自然に理解できる。集合・論理・空間と図形——それぞれの概念がどういう量的な直感から生まれるかを丁寧に積み重ねる方法が、遠山の「水道方式」の根幹です。第3章以降の集合・論理・変数と関数への展開と、現行の数学教育にどう影響したかについては、ぜひ本書で確かめてみてください。

「苦手だった算数」が「教わり方の問題だった」と思えるようになった

この本を読んでから、小学校時代に「なんとなくわかったことにしていた」算数の問題を思い出しました。分数の割り算、方程式の変形——「そういう規則だから」と納得したふりをしていた部分に、本来なら「なぜ」という問いがあるべきだった。

「なぜ」を教えないまま「こうすれば解ける」を教える教育は、子どもに「数学は意味がわからなくても通用するもの」という誤解を植え付けます。その誤解は中学・高校と積み重なり、「自分には数学の才能がない」という諦念に変わる。しかし遠山が示すように、「量の直感」から積み上げれば、数学は必然性のある体系として見えてくる。才能の問題ではなく積み上げ方の問題だったと気づいたとき、子どもの頃に感じた数学への苦手意識が少し溶けていきました。

日本の数学教育に革命をもたらした数学者・教育者の集大成

遠山啓(1909〜1979年)は熊本県生まれ。東北大学数学科卒業後、東京工業大学教授として活躍する傍ら、民間教育団体「数学教育協議会」を設立し、「水道方式」と「量の理論」を開発しました。明治以来の数学教育の欠陥を指摘し続けた遠山の仕事は、現在の学習指導要領にも影響を与えています。本書は1972年の刊行で、教育者だけでなく「なぜ数学が苦手だったのか」を知りたい大人にも届く一冊です。

この本を読まなければ、「自分には数学の才能がなかった」という思い込みを根拠として、数学への扉を一生閉ざしたままでいたはずです。苦手の正体が「教え方の問題」だとわかることで、また学び直せる気がしてきます。

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