数学は「公式を使って問題を解くもの」だと思っていた
学校で数学を習ったとき、それは「公式を覚えて問題を解く教科」でした。二次方程式の解の公式、三角関数の公式、微積分の公式——覚えれば解けるが、なぜそれが成り立つのかは試験に出ない。卒業とともに忘れ、「数学は苦手だった」という記憶だけが残る。しかし今日、統計学・機械学習・暗号・財務モデルと、数学はあらゆる分野で使われています。苦手なはずの数学が現代社会を支えているという事実と、「公式暗記」の記憶の間にある矛盾を、この本が解消してくれました。
「数」の誕生から始まる数学の旅
遠山啓がこの本で始めるのは「数の幼年期」——人類がいつ・なぜ・どのように数を使い始めたかという問いからです。羊の群れを管理するために指を使い、石を並べ、記号を発明した——数とは人間が作り出した道具であり、その道具がどのように精緻化されてきたかが上巻の主題です。
上巻では整数・分数・負の数・虚数と、数の概念がどのように拡張されてきたかを歴史的に語ります。「なぜ負の数が必要になったか」「なぜiという数が発明されたか」——それぞれの数が生まれた必然性を知ると、数学が「最初から決まっていたルール」ではなく、人間が問題に直面するたびに作り上げてきた発明の歴史だとわかります。下巻では関数・微積分・微分方程式まで展開され、現代の科学技術の数学的基盤がどこに根を持つかが見えてきます。ぜひ本書で確かめてみてください。
「苦手だった数学」が「人間の発明の歴史」として見えた
この本を読んでから、数学の教科書を見るときの感覚が変わりました。「2+3=5」という計算の背後に、何千年もかけて人類が積み上げた概念の歴史がある。「x^2+4x+4=0」という方程式を解く方法を発明した人たちが、なぜその発明が必要だったのかを考えながら取り組んでいた——そういう背景を知ると、数字の羅列が全く違って見えます。
「数学はすべての学問の土台だ」という言葉は理解できても、どう土台になっているのかはわからなかった。遠山啓は「現代社会に活動するすべての日本人に必要な数学の知識を、日常生活の論理に定着させる」という志を持ってこの本を書きました。公式の丸暗記が数学への関心を奪ってきた教育の問題を認識しながら、数学の本当の顔——概念の積み重ねとしての歴史——を届けようとした一冊です。
「水道方式」で日本の数学教育を変えた教育者
遠山啓(1909〜1979年)は熊本県生まれ。東北大学数学科卒業後、東京工業大学教授として数学を担当する傍ら、民間教育団体「数学教育協議会」を設立し、数学教育の革新に生涯を捧げました。「水道方式」と呼ばれる段階的な概念指導法を開発し、日本の数学教育の方法論に大きな影響を与えました。本書は1959年の刊行で、「教科書ではわからなかった数学の意味」を届ける入門書として半世紀以上読み継がれています。
この本を読まなければ、数学を一生「公式の羅列」として誤解したままでいたはずです。数が人類の発明だと知ることで、苦手だった教科が人間の知の歴史として立ち上がってきます。
遠山啓著『数学入門(上)』、購入はこちらから。