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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

「無限」は数えられないと思っていた。カントールが開いた数学の新世界

「無限」は「とても大きな数」だと思っていた

数学の授業で「無限大」という記号を習ったとき、それは「とにかく大きくて、数えられないもの」という理解でした。1より大きく、2より大きく、どんな数よりも大きい——そういう「数え切れないもの」の総称として∞を使っていた。「無限に大きな数がある」という感覚はあっても、「無限にも大きさの違いがある」「無限を比べることができる」という発想は一度もありませんでした。しかしこの本は、その無限に対する常識をまず崩すところから始まります。

カントールは「無限を数えた」——そして無限に大小があることを示した

19世紀末、数学者ゲオルク・カントールが始めた試みは「無限を数える」ことでした。自然数(1, 2, 3…)は無限にある。偶数(2, 4, 6…)も無限にある。では自然数と偶数、どちらが「多い」か。直感では自然数のほうが多そうに見えますが、カントールは「1と2、2と4、3と6…」と一対一に対応させることができれば、同じ「大きさ」の無限だと定義しました。この「一対一対応」という道具で、カントールは無限を数え始めたのです。

さらに衝撃的なのは、「数えられない無限」の存在です。自然数の無限と、実数(小数を含むすべての数)の無限は、対応させようとしても必ず余りが出る——つまり実数の無限は自然数の無限より「大きい」。無限に大小がある。これは当時の数学界では受け入れがたい主張で、カントールは同業の数学者たちから激しく批判されました。なぜ彼の主張が正しいのか、その証明の美しさ、そして集合論から位相幾何学・群論へとつながる現代数学の全体像については、ぜひ本書で確かめてみてください。

「数えられない」という諦めが消えた

この本を読んでから、「無限」という言葉の見え方が変わりました。以前は「∞」を見るたびに「考えても意味がない、数えられないもの」として思考停止していたのが、「無限を道具として扱う方法がある」と知ってから、現代数学の根っこにある発想が初めて見えてきました。

音楽が「音符が読めなくても鑑賞できる」のと同じように、遠山啓はこの本で「数式なしで数学を鑑賞する」体験を届けようとしました。集合論、トポロジー(位相幾何学)、群論——現代数学の基礎にある概念が、高校数学の知識があれば理解できる言葉で語られています。抽象的に見えた現代数学が、「人間が問題を解くために作り上げた概念の連鎖」として見えてきたとき、知的な風景が一気に広がる感覚がありました。世界に存在する現象を記述する道具を人間が作り続けてきたという歴史が、数学という形で凝縮されているのだとわかります。

「水道方式」で日本の数学教育を変えた教育者が語る数学の核心

遠山啓(1909〜1979年)は熊本県生まれ。東北大学数学科卒業後、東京工業大学教授として数学を担当する傍ら、民間教育団体「数学教育協議会」を設立し、「水道方式」と呼ばれる段階的な数学指導法を開発しました。本書は1952年の刊行で、現代数学の最先端である集合論と位相空間論を一般読者に向けて解説した先駆的な入門書として、七十年以上読み継がれています。

この本を読まなければ、「無限は数えられない」という思い込みのまま、現代数学の革命的な発想に一生触れないでいたはずです。カントールが「無限を数えた」という事実は、数学への見方を根底から変えます。

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