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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

戦争に反対した若者がいた。東大医学生が記録した、昭和という時代の空気

戦争に反対した人間は、戦後になってから反戦を語ったのだと思っていた

昭和の戦争について語るとき、「あの時代は誰もが戦争に賛成していた」という空気があります。戦後になって初めて「実は反対だった」と語り始めた知識人が多かった——それは事実で、その「転向」を分析した本も読んでいました。しかし「戦争の渦中にいながら、ずっと懐疑的であり続けた人間がいた」という事実を、具体的な一人の人物の体験として知ることはなかった。どういう条件がそれを可能にし、どれほど孤独なことだったのか——その問いを、この本が初めて具体的に見せてくれました。

旧制中学から東大医学部へ——「平均的な日本人」として生きた時代

加藤周一がこの回想録を書いたのは、「現代日本人の平均に近い一人の人間がどういう条件の下にでき上ったか、例を自分にとって語ろう」という動機からでした。しかし読み進めると、それは「平均」からは程遠い記録です。旧制中学の頃から徹底して精神論を嫌い、数字と事実に根ざした思考を大切にしてきた著者は、戦争へと傾いていく日本の空気の中で、常に「なぜそうなのか」という問いを手放さなかった。

東大医学部に進み、戦時中も学業を続けた加藤は、戦争について極めて否定的かつ悲観的な立場を取り続けました。その態度はヒロイズムからではなく、感情より証拠を優先する習慣から来ていた。軍国主義の熱狂が最高潮に達した時期でも、その熱狂に乗れなかった一人の若者の目には、日本の社会がどう見えていたか。旧制中学での友人たちとの知的交流、家族の背景、フランス文学との出会いが自分をどう形成したか——加藤が語る自己形成の詳細については、ぜひ本書で確かめてみてください。

「あの時代を生きた人間」が抽象から具体に変わった

この本を読んでから、昭和の歴史を見るときに「自分だったらどうしていたか」という問いが浮かぶようになりました。以前は「あの時代は仕方なかった」「流れに抗えなかった」という一般論で処理していたのが、加藤周一という一人の若者の視点で読むと、「熱狂に乗らずにいること」が具体的にどういう体験だったかが見えてくる。孤立することへの恐怖、仲間外れになることの重さ——それを抱えながら思考を手放さなかった人間がいたという事実は、今を生きる自分にも何かを問いかけてきます。

戦争が終わり、ファシズムが敗れたとき、加藤が感じたのは単純な解放感ではありませんでした。ずっと正しいと思っていたことが、終わってみれば正しかった——という静かな確認と、次の問いへの移行。1945年を26歳で迎えた一人の医学者・評論家がその後どう生き、何を考え続けたかは、今日の日本に生きる自分が、その続きにいることへの気づきでもあります。

『日本文学史序説』を著した戦後日本を代表する知識人の原点

加藤周一(1919〜2008年)は東京都生まれ。東京帝国大学医学部を卒業後、医師・評論家・フランス文学研究者として活躍し、主著『日本文学史序説』(1975年)は日本文化論の金字塔として国際的に評価されました。戦後一貫して平和主義・護憲の立場を取り続けた知識人として知られ、本書はその原点となる自伝的回想録です。1968年の刊行で、半世紀以上読み継がれています。

この本を読まなければ、「あの時代は誰もが賛成していた」という曖昧な歴史観を手放せないまま、一人の人間が時代に抗って思考し続けた記録を素通りしていたはずです。昭和という時代が、特定の個人の体験として立ち上がってきます。

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