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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

お経を唱えても意味がわからなかった。それは翻訳の問題ではなかった

お経は「意味より音の響きが大事」なものだと思っていた

法事でお経が読まれるとき、その意味を考えたことがありませんでした。「南無阿弥陀仏」「色即是空」——聞き覚えのある言葉はあっても、なぜその言葉が唱えられるのか、その背景に何があるのかを問い直した記憶がない。調べてみれば翻訳はあるが、「色即是空」が何を意味するのかを説明できる人は少ない。お経というものは、意味よりも声に出すことに価値があるものなのだろう——という曖昧な理解で、ずっと止まっていました。

お経は「釈迦の言葉」ではなく、後の時代に書かれたものだった

渡辺照宏がこの本で最初に語るのは、驚くべき事実です。現在日本で広く読まれているお経の多くは、釈迦の直接の言葉ではなく、釈迦の死後数百年から数千年かけて弟子たちが作成・整理したものです。パーリ語の経典が「最も古い」と思われがちですが、それも釈迦の言葉をそのまま記録したものではありません。

「般若心経」はいつ・誰によって書かれたのか。「法華経」と「阿弥陀経」はなぜ内容が大きく違うのか。日本の寺院で唱えられる経典の多くが、インドから中国を経てどのように変形してきたか——本書は、経典の成立史を一般読者にわかるように解説した稀有な書物です。ヴィマラキールティ経・華厳経・般若心経・浄土系経典とタントラ経典まで幅広く扱い、それぞれの思想的背景を明らかにしていきます。ぜひ本書で確かめてみてください。

「意味のわからないもの」が「意味のわかるもの」に変わった

この本を読んでから、お経を聞くときの感覚が変わりました。「般若心経」の冒頭「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時照見五蘊皆空」——これが「深い瞑想の中で、存在の五つの要素がすべて空であることを見た」という意味を持ち、それが何世紀もかけてインドから中国へ、中国から日本へと伝わってきたものだと知ったとき、音の羅列が急に言葉として届きました。

「意味よりも音が大事」という伝統にも、それなりの理由があります。しかしその意味を知ってから音を聞くことと、意味を知らずに聞くことでは、受け取り方が全く違う。法事に参列するとき、葬儀の場でお経が流れるとき——この本を読む前と後では、その場の空気の意味が少し変わりました。

20以上の言語に精通した仏教学者が語る、経典の誕生

渡辺照宏(1907〜1977年)は神奈川県生まれ。東京帝国大学文学部印度哲学科卒業後、インド・スリランカに留学してサンスクリット語・パーリ語を習得した仏教学者です。東京大学文学部教授として仏教学・インド哲学を担当し、20以上の言語に精通した碩学として知られます。岩波新書から「仏教」「日本の仏教」「お経の話」という三部作を発表し、難解な仏教思想を一般読者に届ける著作を多数遺しました。本書は1967年刊行です。

この本を読まなければ、お経を「意味のわからない呪文」として一生聞き続けていたはずです。釈迦の時代から1000年以上かけて形作られた言葉たちが、どのような思想的経緯を経て今日の私たちに届いているかを知ると、その響きが変わります。

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