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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

「山」という漢字には、呪術と神話が込められていた

漢字は「形から意味を読み取るもの」だと思っていた

漢字の学習といえば、書き順を覚えて、熟語を覚えて——それが当たり前でした。山は山に見えるから山、川は川に見えるから川。象形文字としての成り立ちを習ったときも、「昔の人が絵で表したもの」くらいにしか感じていませんでした。漢字の背後に、3000年以上前の中国の信仰・呪術・神話が生きていることを、この本を読むまで考えたことがなかったのです。

「名」という漢字には、夜に死者を呼ぶ儀礼が込められていた

白川静が本書で明かすのは、漢字の成り立ちが単純な絵文字の模倣ではなく、古代中国人の宗教的世界観を反映していることです。「名」という字は「夕」と「口」から成りますが、白川の解釈ではこれは「夜に口で名を呼ぶ」——すなわち暗闇の中で死者の魂を呼び寄せる呪術的行為を表しているといいます。

白川は甲骨文字(殷墟から発掘された亀甲・獣骨に刻まれた文字)と金文(青銅器に刻まれた文字)を徹底的に研究し、漢字の原形に込められた古代の信仰の痕跡を読み解きました。「霊」「魂」「祭」——こうした字の成り立ちには、古代中国の神聖王朝の儀礼が刻み込まれています。本書では象形文字の論理から始まり、神話・呪術・社会構造・人の一生まで、漢字を通じて古代中国社会を読み解く旅が展開されます。ぜひ本書で確かめてみてください。

日常に使う文字の底に、3000年が眠っていた

この本を読んでから、日常の漢字の見え方が変わりました。「愛」「命」「信」——これらが単なる意味の記号ではなく、数千年前の人間の祈り・儀礼・世界観が凝縮されたものだと感じるようになりました。

スマートフォンで毎日何百回も使っている漢字が、古代の呪術師が神との交信に使っていた文字と同じ形を持っているという事実——それを知ると、文字を書く行為の重さが少し変わります。小学校で習う「正しい書き順」の背後に、甲骨文字からの数千年の変遷がある。日本語の奥深さは、日本語だけの問題ではなく、その土台にある漢字という文明との絡み合いの中にあるのだということを、この本を読んで初めて実感しました。

独学で甲骨文字を解読し、独自の漢字学を打ち立てた巨人

白川静(1910〜2006年)は福井県生まれ。立命館大学文学部教授・名誉教授として、甲骨文字・金文の研究に生涯を捧げた漢字学者です。正規の中国語・中国古典学の訓練なしに独学で甲骨文を解読し、「字通」「字統」「字訓」という漢字の大辞典三部作を80代に完成させました。日本学士院会員。文化勲章受章(2004年)。本書は60歳のときの一般向け著作第一作であり、白川の漢字解釈が初めて一般に届いた記念碑的な書物です。

この本を読まなければ、漢字を一生「形が意味を示す記号」として眺め続け、その底に眠る3000年の歴史を知らないままでいたはずです。文字の形の中に時代が生きていることを、白川静は教えてくれます。

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