経済の仕組みは複雑すぎて、専門家でないと理解できないと思っていた
ニュースで「景気」「インフレ」「利益」という言葉が飛び交うたびに、自分には関係のない専門的な話だと思っていました。マルクスの『資本論』は分厚い哲学書で、左翼か学者が読むものだというイメージもありました。そもそも「資本主義とは何か」を一度もきちんと考えたことがなかった。商品があって、お金があって、誰かが利益を得ている——それが「当たり前」として空気のように存在していて、その仕組みを問い直す必要性を感じていなかったのです。でも、その「当たり前」に名前をつけて解剖した人物がいた。それがマルクスでした。
「商品」の裏に隠されたものを、マルクスは見抜いた
内田義彦がこの本で語るのは、マルクスが資本論で何を発見したかです。コンビニで100円のパンを買うとき、その100円には何が含まれているか。小麦粉・電気代・機械の減価償却——しかしマルクスが着目したのは「労働」です。商品の価値は、それを作るために社会的に必要な労働時間によって決まる。これが「労働価値説」の出発点です。
さらにマルクスは問います。資本家はどこから利益を得るのか。労働者に1日8時間働かせ、その賃金として「4時間分の価値」しか支払わないとき、残りの「4時間分の価値」が剰余価値として資本家のものになる。これは搾取ではなく市場の自由な取引として行われる——この仕組みの解明が、資本論の核心です。本書はNHKの市民講座を元にした語り口で、数式なしにこの論理を解き明かします。資本主義がどのように矛盾を内包しつつ運動していくかの展開については、ぜひ本書で確かめてみてください。
「なぜ格差は広がるのか」への答えが見えた
この本を読んでから、経済ニュースの見え方が変わりました。「企業が最高益を更新した」というニュースと「実質賃金が下がった」というニュースが同時に流れるとき、以前は単なる偶然のように感じていました。しかし剰余価値という概念を知った後では、それが矛盾でも不思議でもなく、資本主義の構造的な帰結として見えます。
「マルクスは古い」「共産主義は失敗した」という評価と、「資本論を読む」ことは別の話だと気づきました。資本論は共産主義の設計図ではなく、資本主義という仕組みの解剖書です。自分が生きている経済の仕組みを知ることは、医師が人体の構造を知るのと同じように、現実を見る解像度を上げることです。アルバイト代の「時給」という数字を見たとき、それが何を意味しているかが、以前とは全く違って感じられるようになりました。
経済学の巨人を平易な言葉で届けた思想家
内田義彦(1913〜1989年)は東京生まれ。慶應義塾大学経済学部で学び、駒澤大学教授・法政大学教授を歴任した経済学者です。マルクス経済学・社会科学史の泰斗として知られ、1988年に朝日賞を受賞。専門的な経済学の概念を市民に届ける「語り」の技術において類例のない才能を持ち、「内田義彦の文章を読んで経済学者を志した」という研究者が多数います。本書は1966年刊行、NHKで放映された講義をもとに書き直されたもので、半世紀以上読み継がれています。
この本を読まなければ、「資本主義」を一生「空気」として呼吸し続け、その仕組みを問い直す機会を逃していたはずです。自分が生きている経済の構造を知ることの面白さを、この本が教えてくれます。
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