ワクチンを疑う人は冷静で、推す人が煽っている、と思っていた
ワクチンをめぐる議論を見ていると、危険性を訴える側は慎重で理性的に見え、推進する側こそ利害で動いているのだろう、と私はどこかで思っていました。どちらが正しいのかは分からないまま、なんとなく「疑う方が賢明だ」という空気だけが胸に残り続けていたのです。けれど、その整理の仕方ではどうにもしっくりこない場面が増えていきました。同じ「慎重派」のはずの人たちが、いつのまにか互いを激しく非難し合っている。その違和感の正体を、医療ジャーナリストの鳥集徹さんの一冊が言葉にしてくれました。
「正義の側」だと信じた集団が、内側から先鋭化していく
本書が描くのは、自己増幅型mRNAワクチン「レプリコンワクチン」をめぐって起きた反対運動の混乱です。本書では、ワクチンの是非そのものを断じるのではなく、「個体間伝播」や「ワクチンパンデミック」といった主張がどのように広がり、なぜ反対運動の側が分断し、先鋭化していったのか――その過程が当事者への取材をもとに描かれていきます。製造元による法的措置への言及が「言論封殺」と受け取られた経緯、不安が連鎖的に増幅していく構造、そして運動の周囲に生まれたビジネスの存在。本書ではこれらが、どちらか一方に肩入れするのではなく、起きた事実とそれに対する著者の見解として提示されます。さらに章を追うごとに、「恐怖はどうやって人から人へ伝わるのか」という、ワクチンの枠を超えた問いへと話は深まっていきます。読者レビューのなかには「コロナワクチン騒動の初期は状況を追えていたのに、レプリコンが持ち上がる頃には何がどうなっているのか分からなくなっていた。この本でようやく流れを理解できた」という声もありました。混乱の渦中ではつかみにくかった全体像を、時系列で整理してくれる一冊なのです。この続きは、ぜひ本書で確かめてみてください。
「敵か味方か」で世界を見る癖が、少しほどけた
この本を読む前の私は、ある争点について「どちらが正しいか」をまず決めようとしていました。読み終えた今は、ニュースで対立を見かけたとき、立場の正誤よりも先に「この不安は、どんな経路で大きくなっているのだろう」と一歩引いて眺めるようになりました。たとえば家族が健康情報をめぐって不安そうにしているとき、以前なら正解を押しつけて言い争いになっていたところを、まず「何がその不安を膨らませているのか」を一緒に確かめられるようになったのです。SNSで強い言葉が飛び交う投稿を見ても、すぐに「どちらが正しい」と裁くのではなく、なぜこの人はここまで断定したくなっているのだろう、と背景を想像する余裕が生まれました。立場を決めつける前に、感情が動く仕組みを見る。その視点が、日々目に入る情報との距離の取り方を確かに変えてくれました。
知らないままだと、自分も「分断のどちらか」に流されていた
この本を読まなければ、私はきっと「賢く疑う側」に無自覚に身を置いたまま、誰かを非難する側に回っていたかもしれません。鳥集さんは、第一線の医師を五百人以上取材し、『新薬の罠』で日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞した医療ジャーナリストです。特定の立場を声高に主張するのではなく、起きた出来事を一つひとつ確かめていくその姿勢だからこそ、私のような読者も身構えずに自分の思い込みを点検できました。何を信じるかではなく、どう向き合うかを問い直したい人にこそ届く一冊だと感じます。
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