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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

ミューズリも冷水浴も、起源は150年前のドイツにあった

健康法のブームは現代の発明だと思っていた

朝食のミューズリ、冷たいシャワーで体を引き締める習慣、断食やファスティング。こうした健康法を、私はなんとなく現代の流行か、せいぜいここ数十年のものだと思い込んでいました。新しい研究が出るたびに健康の常識は更新されていくものだ、と。けれどそう信じていると、次々と現れる健康ブームにどこか振り回されている気持ちが残ります。何が本物で何が一時の流行なのか、足場がない感覚です。森貴史さんの『ドイツの自然療法』を読んで、その足場のなさの正体が見えました。私たちが新しいと思っている習慣の多くは、150年前のドイツですでに体系化されていたのです。

水と食事と日光をめぐる、壮大な実験の時代

本書がたどるのは、十九世紀後半のドイツで大きく広がった自然療法をめぐる歴史と文化です。冷水を浴びて体を鍛える水治療法、菜食主義と断食、日光浴、体操。今では当たり前に語られるこれらが、当時は名物治療家たちの個性的な実践として競い合っていた様子が描かれます。たとえば、日本でも名前を聞くクナイプ、シリアルでおなじみのケロッグ、グラハムといった人々が、この自然療法の系譜に連なっているといいます。朝食のミューズリも、こうした運動のなかから生まれた食事法でした。水を浴びるという素朴な行為に、ここまで体系だった理論と実践が積み重ねられていたのかと、ページをめくるたびに驚かされます。本書はさらに、日光浴と裸体文化、スウェーデン体操に代表される運動療法、サナトリウムでの療養、そしてナチス時代に自然療法がどう取り込まれ、政治的に利用されていったかという章にまで踏み込みます。健康への素朴な願いが、時代によってどんな顔を見せ、ときに思わぬ方向へねじ曲げられていくのか。その光と影の振れ幅まで、本書では具体的に追いかけられています。

流行に見えていたものが、長い系譜の一部に変わった

この本を読む前の私は、健康法を「最新かどうか」で値踏みしていました。新しい研究のほうが正しいに決まっている、と。けれど自然療法の長い歴史を知ってから、スーパーでミューズリの棚を見るときの気持ちが変わりました。これは流行ではなく、150年前の人々が体の調子と向き合った末にたどり着いた知恵の延長なのだ、と。朝に冷たい水で顔を洗うときも、クナイプの水治療を思い出して、少しだけ背筋が伸びます。新しい健康法の広告を見ても、以前のように飛びつくのではなく、これはあの系譜のどこに位置づくのだろうと一歩引いて眺められるようになりました。健康への営みが、急に奥行きのあるものに見えてきたのです。新しさに振り回される感覚が消え、自分の生活習慣を歴史の地続きのものとして、落ち着いて眺められるようになりました。

知らなければ、ただの流行として消費し続けていた

この本に出会わなければ、私はこれからも健康法を使い捨ての流行として消費していたはずです。著者の森貴史さんは、ベルリン・フンボルト大学で博士号を取得し、関西大学文学部で西洋文化史を専門とする教授です。ドイツの身体文化や生活改革運動を一貫して研究してきた書き手だからこそ、断片的な健康知識を一本の歴史としてつなぎ直すことができるのだと感じました。今日あなたが何気なく取り入れている健康習慣も、思いがけず深い由来を持っているかもしれません。

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ドイツの自然療法 (平凡社新書969) 森 貴史 / 平凡社新書

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