コロナ禍は、日本企業の弱さを露わにしただけだと思っていた
テレワークへの切り替えは遅れ、はんこのためだけに出社し、デジタル化では世界に周回遅れ。コロナ禍のニュースに触れるたびに、私は「やはり日本の会社は時代に取り残されていく」と半ば諦めていました。働き方をめぐる暗い話題ばかりが目につき、この国の経済はこのままじりじり沈んでいくのだろうと、漠然とした不安を抱えていたのです。けれど、その不安には妙にもやもやした手応えのなさもありました。本当に弱さだけなのか、見落としている強さはないのか。そのもやもやに、はっきりとした言葉を与えてくれたのが、この一冊でした。
コロナショックは、日本企業の分水嶺だった
本書が示す見立ては、私の悲観論とは正反対です。著者は、ポストコロナの時代に日本の産業はむしろ国際的に強くなっていく可能性がある、と論じます。その根拠として挙げられるのが、日本が欧米に比べて感染の影響を比較的小さく抑えられた背景にある「共同体への配慮」や、ひと手間を惜しまない仕事ぶりです。私が「遅れ」だと決めつけていた日本の組織のあり方に、別の角度から光が当てられる瞬間がありました。
プロローグは「コロナショックは日本企業の分水嶺」と題され、本書はそこから「テレワークがあぶり出した日本の組織」「逆張りのグローバリゼーション加速」「コロナショックが日本の産業を強くする」と章を重ねていきます。私が単なる失点だと思っていたテレワークの混乱さえ、ふだんは見えない日本の組織の本質を浮かび上がらせる出来事として読み解かれていきます。さらに本書では、世界が内向きになるなかであえて海外展開を進める「逆張りのグローバリゼーション」や、待ったなしの雇用・人事改革といった、これからの課題にも踏みこんでいきます。最後の鍵を「成長への心理的エネルギー」という、数字には表れにくいものに置く視点も含め、続きはぜひ本書で確かめてみてください。
ニュースの読み方が、悲観一色でなくなった
この本を読む前の私は、日本企業に関する報道をほとんど「衰退の証拠集め」として受け取っていました。読んだあとは、同じニュースのなかにも、強みになりうる芽がないかを探すようになりました。職場で誰かが顧客のために細かな気配りをしているのを見ると、以前なら「非効率だな」と思っていたのが、今は「これがこの国の底力の一部なのかもしれない」と見方が変わっています。逆に、改めるべき遅れと、守るべき強みを、ひとまとめに「ダメな日本」と片づけてはいけないのだとも気づきました。漠然とした衰退の不安が、強みと弱みを冷静に切り分けて考える落ち着きに置き換わった。その変化は、日々のニュースとの付き合い方を確かに軽くしてくれました。
知らないままだったら、悲観だけを握りしめていた
もしこの本に出会わなければ、私は今も日本企業を一方的に見限ったまま、もやもやした不安だけを握りしめていたはずです。著者の伊丹敬之さんは一橋大学名誉教授で、経営学の分野で初めて文化功労者に選ばれた経営学者です。『経営戦略の論理』などで日本企業の実証研究を切り拓いてきた第一人者だからこそ、危機のただ中でも浮足立たず、強さと課題の両方を見据えた冷静な見立てを示せるのだと思います。日本経済の先行きに漠然とした不安を感じている人ほど、この視点に一度触れてみてほしいと思います。