「電気は『コンセントに差せば動く』ものであり、その背後の仕組みを知る必要はない」とずっと思っていた
電気は当たり前の存在で、コンセントに差せば家電が動き、スイッチを入れれば明かりが点く。「直流」と「交流」という違いがあることは知っていても、それが何を意味し、なぜ家庭に来ているのが交流なのか——その辺りを真剣に理解しようとしたことはありませんでした。発電所の写真を見ても、それが「三相交流」を作っているという事実が、自分の電子レンジや冷蔵庫とどうつながっているのかは霧の中でした。
でも、電気自動車・再生可能エネルギー・スマートグリッド・パワーエレクトロニクス——現代社会で電気を語るキーワードが次々と出てくると、「電気の基本」を理解せずにこれらの議論を追っているのが心許なくなる感覚がありました。「電気は専門家の領域」と切り離してきた認識を見直す機会を持てないままでいました。
森本雅之著『交流のしくみ——三相交流からパワーエレクトロニクスまで』を読んで、その「電気の基本」が見えてきました。
三相交流は発電・送電・モーター駆動を効率的に成立させる仕組みで、パワーエレクトロニクスがそれを現代生活に届けている
著者が本書で示す核心は、私たちが日常で使う電気の大部分が「三相交流」という形で発電・送電され、家庭や工場で使われる過程で「パワーエレクトロニクス」という変換技術が裏で働いており、この二つを理解することで現代の電気インフラと家電・電気自動車の仕組みが立体的に見えてくるという事実です。著者は三菱重工業で産業機械・鉄道車両・エアコンのパワーエレクトロニクス技術を開発してきた工学博士として、入門者向けに段階を追って解説します。
特に印象的なのは、「なぜ家庭に来る電気は交流なのか」という素朴な問いへの答えです。直流と交流の戦いは19世紀末のエジソンとテスラの「電流戦争」にまで遡り、長距離送電において交流が圧倒的に有利だったため、現代の電力網は交流が中心になりました。さらに「三相交流」は単相交流の3倍効率的な送電と、モーターの効率的な駆動を可能にする仕組みです。発電所・送電線・変電所・モーター——これらすべてが三相交流を基盤に組み立てられています。そして「パワーエレクトロニクス」は、20世紀末に確立された技術で、交流を直流に変換し、再び別の周波数の交流に変換することで、電気自動車・インバータエアコン・新幹線・太陽光発電のすべてを支えています。本書にはさらに、電気の将来としての「直流の見直し」と再生可能エネルギーの統合が詳しく描かれています。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。
日常の家電が「動いている仕組み」として見えるようになった
読む前と後で、電気と家電への向き合い方が変わりました。以前は家電を「ブラックボックス」として使い、動くか動かないかだけを気にしていました。でも今は、「これは交流をどう使っている」「インバータがあるからこの効率が出ている」という、内部の仕組みを想像しながら使えるようになりました。
具体的には、エアコン・冷蔵庫・電気自動車の宣伝で「インバータ式」「省エネ」と書かれているのを見たとき、それが何を意味するかが具体的にわかるようになりました。電気代の話題・再生可能エネルギーへの転換・スマートグリッド構想——これらを技術の仕組みから理解できると、議論を一段深く読めます。「電気は専門家の話」と切り離さず、「自分の生活の基盤として理解する対象」として扱う視点が、本書を通じて獲得できました。
元三菱重工技術者・東海大学教授がパワーエレクトロニクスの実践から書き起こした
森本雅之は慶應義塾大学大学院修士課程修了後、三菱重工業で産業機械・鉄道車両・エアコンのパワーエレクトロニクス技術の研究開発を担当した工学博士で、2005年より東海大学教授として教育・研究を続けてきた著者です。実際にパワーエレクトロニクスを設計・実装してきた現場経験を持つ著者だからこそ、本書では教科書的な解説を超えた、実装者の視点による具体的な説明が展開されています。
この本を読まなければ、電気を「コンセントから来るブラックボックス」として扱い続け、三相交流とパワーエレクトロニクスが私たちの生活を支えている仕組みと向き合う機会を持てないままでいたでしょう。