戦争は「正義の側が勝てば終わる」と思っていた
戦争のニュースを見るたびに、どこかで「悪い側が倒され、正しい側が勝てばいずれ終わる」と思っていました。テレビの向こうの紛争は遠い出来事で、自分とは関係のない世界の話だと感じていたのです。けれど、その理解のままだと、いつまでたっても「なぜ戦争はなくならないのか」という問いに対して、霧がかかったような居心地の悪さが残り続けます。本書を読んで、その認識は根底から崩れました。武器を捨てさせる現場は、正義の勝利とはまるで違う論理で動いていたのです。
銃を置かせるのは、説得ではなく取引だった
著者は東ティモール、シエラレオネ、アフガニスタンで、軍閥やゲリラから武器を取り上げる「武装解除」を実際に指揮した人物です。本書で描かれるのは、理想を語って相手を改心させる場面ではありません。むしろ、軍閥のボスたちのむき出しのエゴと向き合い、彼らに「銃を手放したほうが得だ」と思わせるための、極めて現実的な駆け引きの連続です。多国籍の軍人や警官を部下に従え、対立する勢力の間に立ち、あらゆる手段を使って妥協点を探る。著者の言葉を借りれば、それは机上の平和論ではなく、相手の利害を一つひとつ調停していく地道な作業でした。戦争が日常になってしまった土地では、武器を捨てることは生活の保障を失うことと表裏一体です。だからこそ、ただ「武器を出せ」と命じても誰も従わない。武器を手放した先に、どんな暮らしや仕事が待っているのかを設計しなければ、武装解除は一歩も進まないのです。本書には、シエラレオネで内戦後の社会復帰をどう組み立てたか、アフガニスタンで群雄割拠する軍閥をどう動かしたかといった、現場でしか見えない判断の機微がさらに詳しく描かれています。きれいごとが一切通用しない世界で、それでも一人の人間が何を信じて動いたのか。その手触りを、ぜひ本書で確かめてみてください。
ニュースの見え方が、まるで変わった
この本を読む前は、紛争のニュースを「どちらが正しいか」という物差しでしか見ていませんでした。テロップに流れる和平合意の文字を見ても、それで一件落着したのだろうと素通りしていたのです。けれど今は、画面の向こうで誰がどんな利害を抱えて武器を握っているのか、その武器を置かせるには何が必要なのかを想像するようになりました。停戦の合意が結ばれたと報じられても、署名された紙の上の約束を実際の現場で機能させることの途方もない難しさが、初めて自分のことのように感じられるようになったのです。朝のニュースで遠い国の停戦を聞いたとき、以前なら聞き流していた一行に、現場で奔走している誰かの存在を思い浮かべるようになりました。遠い世界の出来事だったものが、急に解像度を上げて立ち上がってくる。世界の見え方が一段深くなった感覚があります。
知らないままでいたら、ずっと表面しか見ていなかった
この本を読まなければ、私は紛争を「正義と悪の対決」という単純な構図のまま眺め続けていたはずです。著者は東京外国語大学で平和構築・紛争予防を長年教えた研究者であり、何より国連の現場で実際に武装解除を指揮してきた当事者です。理論と実体験の両方を持つ人物だからこそ書ける、生々しくも冷静な記録がここにあります。世界のニュースに対して、どこか他人事のような違和感を抱えている方こそ、この本が見ている景色を一度のぞいてみてほしいと思います。