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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

「いい人でいよう」と決めた日から、私は少しずつ自分を見失っていた

嫌われないことが、大人の正解だと信じていた

会議で違和感を覚えても、空気を壊したくなくて口をつぐむ。目上の人の意見に納得していなくても、とりあえず笑顔でうなずく。友人との関係が気まずくなるのが怖くて、おかしいと思ったことも飲み込む。波風を立てないことが大人の振る舞いだと、長いあいだ信じていました。たしかにそうしていれば、人間関係のトラブルは起きにくい。けれどその一方で、自分が何を言いたかったのか、だんだん思い出せなくなっていく。穏やかなのに、どこか満たされない。その正体がわからないまま過ごしていたとき、坂上忍さんの『偽悪のすすめ 嫌われることが怖くなくなる生き方』に出会い、自分の前提が静かに崩れていきました。

「偽善」より「偽悪」を選ぶ、という覚悟

この本のタイトルにある「偽悪」という言葉に、最初は身構えました。わざと悪ぶる、嫌な人間を演じる、そんな話かと思ったのです。けれど読み進めると、その意味はまったく違いました。著者が語るのは、嫌われることを覚悟したうえで本音を口にする、という選択です。本書では、自分の意見を捨ててまで相手や空気に迎合する必要はない、と繰り返し説かれます。本音を言えば、たしかに一部の人からは嫌われる。意見がぶつかることもある。けれどその覚悟を持って発言する人にだけ、本当の信頼が集まっていく、という逆説がそこにありました。本書には、子役として三歳でデビューしてからの来し方や、勝新太郎をはじめとする規格外の人々との交流のなかで著者がつかんだ流儀が、率直な言葉で綴られています。なぜ彼が世間の常識からあえて外れる生き方を選んだのか、その背景の章は、ぜひ本書で確かめてみてください。

沈黙の優しさが、誰の記憶にも残らないと気づいた

この本を読んでから、自分の「沈黙の優しさ」を疑うようになりました。以前の私は、会議で当たり障りのないことしか言わず、その場が丸く収まれば満足していました。けれど後から振り返ると、自分が何を考えていたのか、周りの誰の記憶にも残っていない。波風を立てなかった代わりに、存在ごと薄まっていたのです。ある日、納得できない案に対して、初めて自分の言葉で反対意見を述べました。場の空気は一瞬こわばりましたが、後日その意見を覚えていた同僚から「あのとき言ってくれて助かった」と声をかけられました。嫌われるのを恐れて黙っていた頃には、決して起きなかったことです。すべての人に好かれることはなくなりましたが、その分、自分の言葉を信じて頼ってくれる人が確かに増えていきました。自分を偽らないと、摩擦は増える。けれどその摩擦の向こうに、薄まらない自分の輪郭が戻ってくる感覚がありました。

嫌われる勇気の手前で、立ち止まっていた自分へ

この本を読まなければ、私はこれからもずっと「いい人」を演じ続け、満たされない違和感の正体に気づけないままだったと思います。著者の坂上忍さんは、三歳でデビューし、半世紀近くを芸能の世界で生き抜いてきた人です。テレビの短い言動だけでは毒舌キャラと片づけられがちですが、本書から垣間見えるその思考は、複雑で屈折しながらも、驚くほどまっとうでした。だからこそ語れる「嫌われることを怖がらない生き方」には、説得力があります。穏やかさのために自分を抑え込んでいる人ほど、この一冊が効くはずです。

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偽悪のすすめ 嫌われることが怖くなくなる生き方 (講談社+α新書) 坂上忍 / 講談社+α新書

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