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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

「初恋」の透明な旋律の裏に、こんな人生があったとは

あの名曲は、ただ美しいだけのフォークソングだと思っていた

村下孝蔵さんの「初恋」や「踊り子」を、私は長いあいだ、ただ繊細で透明な恋の歌として聴いていました。あの澄んだ高音と切ない旋律は、生まれ持った才能がさらりと紡いだものだろう、と。けれど聴くたびに、なぜこの人の歌だけがこんなにも胸の奥に届くのか、その理由がうまく言葉にできず、もどかしさが残っていました。落合昇平さんの『村下孝蔵STORY 深き夢歌、淡き恋歌』は、その旋律の背後にあった一人の人間の歩みを丁寧にたどり、もどかしさの正体に光を当ててくれました。

名曲の裏にあったのは、地道に積み重ねた一人の人生だった

本書は村下孝蔵さんの没後十年を機に、その生涯を初めてまとめた一冊です。一九五三年に熊本県で生まれ、一九八〇年に「月あかり」でデビューするまでの少年の日の風景から、家族や音楽関係者への取材を重ねた聖地巡礼のような構成で、彼の軌跡をたどっていきます。読者のレビューには、姉と同じ夢を見たという幼少期の不思議なエピソードに驚いたという声があります。ある読者は、孝蔵さんと姉が同じ夢のなかで同じ景色や花園の匂いを共有していたという逸話に触れ、その繊細な感受性に胸を打たれたと書き残しています。また、ネットでは出てこない友人や音楽関係者の証言に触れて胸が熱くなったという声も並びます。きらめく才能が突然あらわれたのではなく、地道に積み重ねられた日々と、多くの人から愛された人柄が、あの澄んだ歌声を支えていた。読み手によって受け取り方は分かれるようで、ドキュメンタリー仕立ての構成を高く評価する声もあれば、もっと史実を整理してほしかったという声もあります。それでもファンであれば一読の価値がある貴重な記録だという感想が目立ちます。歌のどんな源泉がそこにあったのか、その続きはぜひ本書で確かめてみてください。

同じ曲が、まったく違って聴こえるようになった

この本のことを知ってから、村下孝蔵さんの曲を聴く時間がまるで変わりました。以前は通勤の途中にぼんやり流していたあの旋律が、今は一つひとつの歌詞の奥に彼の人生の手触りを感じながら聴くものになっています。「初恋」のサビが流れるとき、ただ美しいと思うだけでなく、この一節を書いた人がどんな少年時代を送っていたのかを思い浮かべる。「踊り子」のあの哀切な旋律も、以前は単に切ない恋の歌として受け取っていましたが、今は彼が育った熊本の風景や、家族との時間まで想像しながら聴いています。聴き慣れた曲が、急に立体的な物語をまとって響いてくるのです。プレイリストに並んだ何気ない一曲が、一人の人間の四十六年という生涯を背負った歌として、まったく違う重みで耳に届くようになりました。長く言葉にできなかった「なぜこの人の歌だけ胸に届くのか」というもどかしさが、少しずつほどけていく感覚があります。

旋律だけを知っていた自分を更新する

この本を読まなければ、私は名曲の旋律だけを知って、それを生んだ人の歩みを知らないままだったと思います。著者の落合昇平さんは、関係者への丁寧な取材を重ね、村下孝蔵さんという一人の歌い手の人生を初めて書物の形に残しました。本人がこの世を去ったあと、断片として散らばっていた証言を一冊に編み上げた仕事には、得がたい価値があります。あの透明な歌声に一度でも心を動かされたことのある方に、そっと差し出したい記録です。

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村下孝蔵STORY 深き夢歌、淡き恋歌 (ソニー・マガジンズ新書 M 3) 落合 昇平 / ソニー・マガジンズ新書 M

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