「世論調査・ランキング・データに基づく報道は客観的な事実であり、数字を疑う理由はない」とずっと思っていた
ニュースで「世論調査では支持率が○%」「○○ランキング1位」「アンケートで○%の人が」と数字が出てくると、それを「事実」として受け取る習慣が染みついていました。「データに基づく」「統計的に有意」というキーワードがついていれば、内容は信頼できる——そんな前提で情報を消費していました。「データを疑う」という発想は、陰謀論者の振る舞いと結びついていて、健全な懐疑とは違うものとして遠ざけていました。
でも、同じ世論調査でもメディアによって支持率が違ったり、「○○県別ランキング」が調査機関によって順位が変わったりする現実を見ると、「数字は客観的」という前提に何かズレがある感覚はありました。データの「中立性」と「主観性」をどう見分けるか、その地図を持っていませんでした。
田村秀著『データ・リテラシーの鍛え方——“思い込み”で社会が歪む』を読んで、その地図の輪郭が見えてきました。
ネットアンケート・ランキング・「うまい話」——日常で目にする数字の多くは、設計の段階でバイアスが組み込まれている
著者が本書で示す核心は、日常で目にする「データ」の多くが、調査の設計段階(質問の仕方・回答者の選び方・集計方法・公表の仕方)にバイアスが組み込まれており、その結果として「客観的な数字」を装いながら特定の結論を導いている例が多いという事実です。著者は内閣支持率の世論調査の矛盾、地域ランキングの主観的な基準、アンケート結果の偏りなどを具体例に挙げて、データの裏にある問題点を解き明かします。
特に印象的なのは、「ネットアンケート」に潜むバイアスの解説です。ネットアンケートは安価で大量にデータを集められる反面、回答者がそもそも「ネットを使う層」「アンケートに答える時間がある層」に偏っており、結果として一般国民の意見を反映しているとは限りません。さらに「同じ会社のアンケートで同じテーマでも結果が違う」現象を引きながら、質問文の微妙な違いが回答に与える影響、選択肢の順番が結果に与える効果——調査設計の細部が結論を左右する仕組みが具体的に示されます。「うまい話には裏がある」では、投資広告やセミナーの宣伝に潜む数字のトリックが解説されます。本書にはさらに、政府統計の問題点・メディアによる数字の使い方の偏り・データを健全に疑うための実践的な技術が詳しく描かれています。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。
「データに基づく」という言葉への警戒心が、健全に育った
読む前と後で、ニュースとデータへの向き合い方が変わりました。以前は「○○調査によると」「アンケート結果では」と数字が出てきたら、内容は信用できる前提で読んでいました。でも今は、「誰が、どんな方法で、どんな対象を、いつ調査したのか」を確認してから、その数字の重みを判断するようになりました。
具体的には、世論調査の結果に対して「支持率○%という数字の前に、サンプル数・調査方法・回答率を見る」習慣がついきました。「○○ランキング」を見たとき、「どの指標で、誰が選んだか」を確認しないと、ランキングそのものが意味を持たないことに気づきました。データを「事実」として鵜呑みにせず、「設計と発信者の意図を含む情報」として読み解く視点が、本書を通じて獲得できました。
長野県立大学教授・公共経営の専門家が、政策現場と統計分析の経験から実践的に解説した
田村秀(1962年北海道生まれ)は東京大学工学部卒・博士(学術)で、長野県立大学グローバルマネジメント学部教授・公共経営コース長として、公共政策と地域政策を専門に研究してきた研究者です。政府統計・自治体の調査・各種ランキングを政策の現場で扱ってきた経験を持つ著者だからこそ、本書では数字のトリックを実例ベースで解説する射程が成立しています。
この本を読まなければ、データを「客観的事実」として受け取り続け、調査・ランキング・アンケートに潜むバイアスが社会を歪める仕組みと向き合う機会を持てないままでいたでしょう。