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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

年をとることを、ずっと「失っていく時間」だと数えていた

年齢を重ねるのは、できることが減っていくことだと思っていた

年をとるとは、若さや体力や可能性が少しずつ目減りしていく過程だと、私は長いあいだそう捉えていました。一つ歳を重ねるたびに、何かを諦める準備をするような気分になる。誕生日が近づくと、達成できていないことばかりが頭をよぎって、どこかしぼんでいくような感覚がありました。その引き算の発想のまま生きていると、これから先がただ細っていく一本道に見えてしまう。本書はその物差しそのものを、軽やかにひっくり返してくれました。年をとることは減ることではなく、むしろ味わいが増えていくことなのだと、肩の力を抜いて語りかけてくるのです。

「いいかげん」であることの、思いがけない効用

本書を貫いているのは、力みを手放した著者ならではの人生観です。著者の森毅さんは、何事もきっちり詰めようとせず、適度に「ええかげん」でいることを肯定します。完璧を目指して自分を追い込むのではなく、うまくいかない自分も込みで面白がる。その姿勢が、加齢という重く語られがちな主題を、ふっと愉快なものに変えていきます。たとえば過去の失敗や回り道さえ、年を重ねたいまだからこそ笑い話として味わえる、という捉え方です。若い頃には傷でしかなかった出来事が、時間を経ることで芳醇な思い出に変わっていく。年齢とは、その熟成のための時間なのだと気づかされます。本書ではこのほかにも、老いや死との向き合い方、若さに固執しないことの自由、世間体や肩書きから解き放たれる構え方など、長く生きた人間だけが到達できる視点が随所に差し出されます。説教めいたところは一つもなく、隣で気のいい先輩がぽつりと語りかけてくるような語り口です。読みながら、自分が握りしめていた力みが少しずつほどけていくのを感じました。

「まだ間に合わない」が「まだまだこれから」に変わった

読んでからの変化は、日々の小さな選択に表れました。以前は新しいことを始めようとするたび、もう若くないからと自分にブレーキをかけていました。語学をやり直そうかと思っても、いまさら遅いと棚に戻す。そんな繰り返しでした。いまは、遅いも何も、これから先がいちばん若い日なのだと思えるようになりました。週末に前から気になっていた習い事の体験に申し込んだとき、年齢を言い訳にしなかった自分に少し驚いたほどです。鏡に映る白髪を見つけても、以前のように焦るのではなく、ここまで生きてきた証だと受け止められるようになりました。年を数えるたびに縮こまっていた心が、むしろ何を足していこうかと前を向く。同じ年齢でも、見えている景色がまるで違うのです。

知らなければ、老いをただ恐れるだけで終わっていた

年をとることを愉しむという発想は、誰かに教わらなければなかなか持てないものです。著者の森毅さんは、京都大学で長く教鞭をとった数学者でありながら、温かなまなざしと軽妙な語り口で世代を問わず親しまれたエッセイストでした。理詰めの学問を究めた人が、人生についてはこれほど肩の力を抜いて語る。そのギャップ自体が、本書の説得力になっています。もし読まなければ、私はこれからも年齢を引き算で数え、来るべき時間を恐れるだけだったでしょう。歳を重ねることに小さな不安を抱えている方こそ、この一冊で気持ちのほどける感覚を確かめてみてください。

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