ローマといえば、皇帝が君臨する大帝国だと思っていた
ローマと聞いて思い浮かべるのは、豪華な宮殿で君臨する皇帝と、地中海を支配する巨大な帝国の姿でした。映画やゲームに登場するローマも、たいてい絶対的な権力者がいる強大な国家として描かれます。だから私は、ローマは最初から皇帝が治める帝国だったのだろうと、なんとなく思い込んでいました。けれど世界史の年表を眺めるたびに、共和政だの元老院だのという耳慣れない言葉が並んでいて、その全体像がどうにも頭の中で像を結びませんでした。強いはずの国に、なぜ王がいない時代があるのか。その引っかかりを、ずっと放置したままだったのです。本書は、そのもやもやを一つずつほどいてくれました。
ローマは、皇帝のいない時代にこそ大きくなっていた
本書が描き出すのは、ローマが皇帝のいない「共和政」という仕組みのもとで、最も大きく版図を広げていったという事実です。王を追放し、元老院と市民が権力を分け合う体制のなかで、ローマは地中海世界の覇者へとのし上がっていきました。皇帝が登場するのは、むしろその後の話なのです。本書は「ローマ建国の真実」から始まり、「共和政の誕生」、そして「なぜローマは帝国となったのか」という転換点へと、九つの講義を通じて歴史を背景から解き明かしていきます。なぜ市民が支える共和政が、やがて一人の皇帝に権力を譲り渡すことになったのか。本書はこの転換を、単なる出来事の羅列ではなく「背景」から説き起こします。権力闘争のなかで一人の人物に期待が集まり、やがて共和政の仕組みが内側から作り替えられていく。その過程には、現代の私たちの組織にも通じる人間の力学が潜んでいます。さらに、帝政が始まってから五賢帝の最盛期へと至り、そこから分裂・滅亡へと向かう章では、なぜあれほど強大だった国が崩れていったのかという、より踏み込んだ話が展開されます。建国から滅亡までが、ぶつ切りの暗記項目ではなく、ひとつの長い物語としてつながっていく。その感覚を、ぜひ本書で確かめてみてください。
ニュースの見え方が、立体的になった
この歴史の構造を知ってから、日々のニュースの見え方が変わりました。以前は、どこかの国で権力が一人に集中したという報道を聞いても、遠い世界の出来事として受け流していました。けれど、共和政から帝政へというローマの移り変わりを知った今は、その背後にある「人々がなぜ強い指導者を求めてしまうのか」という構造が、ふと重なって見えるのです。会社の組織を眺めるときも、合議でものを決める部署と、トップが一人で決める部署の違いに、ローマの元老院と皇帝の姿が重なります。二千年前の物語が、目の前の現実を読み解く補助線になる。歴史が暗記科目ではなく、世界の仕組みを照らす道具に変わった瞬間でした。
知らないままなら、歴史をただの暗記で終わらせていた
この本を読まなければ、私はローマを「皇帝のいた大帝国」という一枚の絵のまま記憶し、その奥行きに気付かないままだったはずです。著者の長谷川岳男さんは、古代ギリシア・ローマ世界を専門とする西洋史の研究者で、ローマ人のアイデンティティ形成をめぐる研究に長く取り組んできた人物です。専門家だからこそ、複雑なローマ史の流れを、初学者がつまずく順番を知り尽くした上で噛み砕いてくれます。歴史が苦手だったという方こそ、世界の見え方が変わる一冊になるはずです。