約束を守れない人は、結局のところ甘えているのだと思っていた
遅刻を繰り返す。片づけられない。やると言ったことができない。そういう人を見るたびに、私はどこかで「結局は本人の甘えだ」「気合いが足りないだけだ」と思っていました。自分はちゃんとできているのだから、と。けれど、身近にそういう人がいると、その整理ではどうにも腑に落ちないことが増えていきます。叱っても直らず、本人はむしろ誰よりも自分を責めている。その矛盾の正体を、ルポライターの鈴木大介さんの一冊が静かに解きほぐしてくれました。「働かない」のではなく「働けない」――その違いを、当事者の視点から描いた本です。
「サボり」に見えていた行動の奥に、脳の不自由があった
本書が突きつけるのは、貧困の現場で長年取材を続けてきた著者が見出した、ある共通点です。約束を破る、時間を守れない、だらしなく見える――そうした特徴は、怠けや甘えではなく、情報処理を担う脳の機能が低下した「働けない脳」によるものかもしれない、と本書では論じられます。著者がこの視点にたどり着いたのは、自身が脳梗塞を発症し、高次脳機能障害の当事者になったからでした。どんなに頑張ってもやるべきことが思うようにできない。当たり前のことが当たり前にできない。その「生き地獄」を自分の身で味わったとき、かつて取材した貧困当事者たちの姿が重なって見えた、というのです。脳の情報処理機能が落ちると、段取りを組む、優先順位をつける、時間の見積もりをするといった、ふだん意識すらしない作業が一気に難しくなります。そうした「見えない不自由」が積み重なった結果が、外からは「だらしなさ」として映ってしまう、という構造が本書では描かれます。本書にはさらに、なぜ遅刻を繰り返してしまうのかという具体的なメカニズムや、自責から当事者をどう解放するかについても踏み込んで書かれています。その続きは、ぜひ本書で確かめてみてください。
「なぜできないの」が、「何が起きているの」に変わった
この本を読む前の私は、できない人を前にすると、まず「なぜできないの」と問い詰めていました。読み終えた今は、同じ場面で「その人の中で何が起きているのだろう」と一度立ち止まれるようになっています。たとえば仕事で何度も同じミスをする相手に対して、以前なら苛立って注意を重ねるだけだったところを、いまは「どこでつまずいているのか」を一緒に探すようになりました。叱責の言葉が、観察と工夫の言葉に置き換わったのです。相手を責める前に仕組みを見る。その一拍が、人間関係のいらだちを驚くほど減らしてくれました。
知らないままだと、誰かを一生「怠け者」と裁いていた
この本を読まなければ、私はこの先もずっと、できない誰かを「怠け者」と裁き続けていたはずです。著者の鈴木大介さんは、『最貧困女子』などで貧困の現場を描いてきたルポライターで、自身の闘病記『脳が壊れた』や、『「脳コワさん」支援ガイド』で日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞しています。取材者として外から見てきた世界を、当事者として内側から再発見した著者だからこそ書ける、説得力のある視点があります。読者レビューにも「身近に働けない人がいるので深く読めた」「腹を立てずに一定の理解ができるようになった」という声が並びます。誰かに、あるいは自分自身に、知らずいらだってきた人にこそ届く一冊です。