罰は重ければ重いほど、犯罪は減ると思っていた
刑務所とは罪を犯した人を厳しく罰する場所であり、その厳しさが抑止力になって犯罪を減らすのだと、私はなんとなく信じていました。テレビで海外の快適すぎる刑務所が紹介されると、「あれでは罰になっていない」と眉をひそめていたほどです。けれど、ニュースで「再犯」という言葉を見るたびに、罰を重くしても繰り返し戻ってきてしまう人がいるのはなぜなのか、その問いがずっと胸の奥に引っかかっていました。その引っかかりに、思いがけない角度から光を当ててくれたのが本書です。
「再び戻ってこない」ことを目的に設計された場所
本書は、アメリカ、フィンランド、イタリア、オーストラリア、ジャマイカ、バルト三国など、世界各地の刑務所を実際に訪ねた記録です。とりわけ印象に残るのは、北欧の刑務所をめぐる考え方でした。ノルウェーでは、刑務所内と外の生活の差が小さいほど社会への移行がスムーズになると考えられており、ある刑務所長は「私たちの仕事は、良き隣人を育てて釈放することだ」と語っています。そして実際に、こうした国々の再犯率は際立って低い水準にあると報告されており、ノルウェーでは出所後の数字が日本と比べてかなり低いとされています。罰の厳しさそのものではなく、出所後に社会へどう戻すかという一点に設計の力点が置かれているのです。受刑者に鉄格子のない個室を与え、外の暮らしとの落差を減らす——一見「甘い」と映るその設計が、実は再び罪を犯させないための合理的な工夫だという視点は、私の常識を静かに揺さぶりました。本書はこうした海外の事例と並べて、職業訓練に力を入れる日本のPFI刑務所や、出所者の自立を支える保護司や更生保護施設の実情にも踏み込み、「犯罪のない社会づくり」に何が要るのかを具体的に提言していきます。読者からも「日本の刑務所は特に厳しいようだ」という驚きの声が寄せられていました。
「罰する」から「戻す」へ、視点がずれた
この本を読む前の私は、犯罪のニュースに触れるたび「もっと厳罰に」と反射的に思っていました。読んだあとは、「この人が出所したあと、また同じことを繰り返さずに済むには何が必要だろう」と、視点が一歩先へずれるようになりました。たとえば再犯の報道を目にしたとき、以前なら怒りで止まっていた思考が、出所後の住まいや仕事をどう支えるかという仕組みのほうへ自然と向かう。あるいは地域で保護司という言葉を見かけたとき、これまで素通りしていたその役割が、急に社会の安全を支える具体的な歯車として見えてくる。安全な社会を望む気持ちは変わらないのに、その望みの叶え方についての解像度が上がったのです。厳しさの先にある「戻す」という発想を知っただけで、社会という言葉の見え方が静かに変わりました。
知らないままでは、ずっと罰の話だけをしていた
この本に出会わなければ、私は犯罪と刑務所について「厳しさ」の一語だけで語り続けていたはずです。世界には「再び戻ってこない人を育てる」という別の設計思想があり、それが数字となって表れている——その事実を知れたことが大きな収穫でした。本書の著者である田中和徳・渡辺博道・秋葉賢也の三氏は、いずれも国政の現場で復興や行政の要職を担ってきた立場から、制度づくりの視点でこの問題に向き合っています。安全な社会を本気で願うからこそ読みたい一冊として、ぜひ本書で確かめてみてください。