明治維新は「日本を西洋に変えた革命」だと思っていた
明治維新について、「日本が西洋に学び、急速に近代化した転換点」というイメージを持っていました。武士の身分が廃止され、洋服が広まり、文明開化の名のもとに日本の伝統が次々と「古いもの」として置き換えられていった時代——そんな漠然とした印象です。そのせいで、明治の日本人を「変化に適応した人々」として捉えていました。
でもどこかしっくりこない感覚がありました。現代の日本にもなお「礼儀」「情けをかける」「義理を重んじる」といった感性が残っているとすれば、それはどこから来たのか。明治という時代が完全に「西洋化」したはずなのに、なぜ日本らしさが消えなかったのか——その疑問を解かぬまま過ごしていたのです。
この本がその疑問に答えてくれました。
「武士の娘」が体現した明治の美徳
本書は、戊辰戦争で賊軍とされた長岡藩筆頭家老の娘・杉本鉞子(1872〜1950)の生涯を通じて、明治人の精神を読み解いた一冊です。杉本鉞子はアメリカで書いた自伝的エッセイ『A Daughter of the Samurai(武士の娘)』が世界7か国で翻訳された人物です。
本書で描かれるのは、西洋の価値観に触れながらも、武家の躾・男の覚悟・夫婦の絆・親の看取りといった「日本人としての美徳」を手放さなかった鉞子の姿です。著者の櫻井よしこは同じ長岡出身の縁もあり、深い共感と鋭い分析で鉞子の人生を読み解いています。
本書にはさらに、明治人が抱いていた死生観や子育て観、そして「家」という概念が近代化の中でいかに機能したかについても詳しく書かれています。ぜひ本書で確かめてみてください。
「変わらなかった日本」への視線が変わった
この本を読んで、「伝統」というものへの見方が変わりました。杉本鉞子の人生を追うなかで、彼女が渡米してからも日本人としての礼儀や死生観を手放さなかった場面が何度も描かれています。以前は、日本の伝統的な価値観は「近代化によって失われつつあるもの」として、どこか古くさいものとして捉えていました。
ところが本書を読み終えると、明治の日本人が「西洋を学びながら日本の核心を守った」という事実が浮かび上がります。完全に西洋化するのでも、変化を拒否するのでもなく、学ぶべきものを学びながら変わってはいけないものを守る——その選択が、日本を日本たらしめてきたのかもしれない、という感覚を持つようになりました。日常で誰かに礼を尽くす場面や、義理人情を大切にする瞬間に、「ああ、これが鉞子の時代から続いてきたものか」と思えるようになったのは、この本を読んだ後の変化です。
現代に残る「明治の残像」を感じるようになった
本書を読んでから、日常のなかで「これは明治から続く感性だ」と思う瞬間が増えました。祖父母の世代が何かを言う場面、あるいはお年寄りが若者に礼儀を求める場面で、「ああ、この人たちは鉞子の時代とつながっているのかもしれない」と感じられるようになりました。歴史と日常がつながる感覚は、この本なしには生まれなかったと思います。
ジャーナリストが読み解く「明治の魂」
ジャーナリストとして長年日本の政治・社会・文化を論じてきた櫻井よしこが、同郷の先人・杉本鉞子の人生を通じて明治の精神を描いた一冊です。研究書の難解さなく、明治という時代が日本人に何を残したかを伝えてくれます。
この本を読まなければ、明治の日本人を「近代化のために変わった人々」として見続けていたと思います。