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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

教育は「役に立つ人材」を作る営みではなかった——ある一冊の反論

教育とは「将来役に立つ力」を身につけることだと思っていた

教育とは、子どもがやがて社会で通用するための力を効率よく身につけさせることだと、長らく信じてきました。これからの時代に必要な能力、変化に対応できる人材。そうした言葉を耳にするたびに、教育とはそこへ向かう準備なのだと疑いませんでした。けれど、その物差しで教育を眺めるほど、どこか息苦しさが残ったのも事実です。何を学んでも「将来の役に立つか」で値踏みされ、学ぶこと自体の手触りが薄れていく感覚。その違和感に名前を与えてくれたのが、神代健彦さんの『「生存競争」教育への反抗』でした。教育は人材を製品のように納品する営みではない、という静かな反論が、凝り固まっていた前提を揺さぶってきます。

「コンピテンシー」という名の、見えない圧力

本書が照らし出すのは、教育に「最小限のコストで最大限の人材を」という産業の論理が忍び込んでいる現実です。著者はこの流れを、世界的なトレンドである「コンピテンシー」型の教育論として捉えます。変化の激しい社会を生き抜く能力を育てる、という一見もっともな旗印のもとで、学校現場はじわじわと疲弊していく。ある読者は本書の比喩を引いて、それを「普通の食事から、機能的に洗練された保健機能食品への転換」のようだと評していました。栄養はたっぷりでも、味わうものではなくなってしまう。学ぶことが、栄養を効率よく摂取する手続きに変わっていく感覚です。これに対して著者が掲げるのは、教育とは子どもを「世界に出会わせ、味わわせる」ことだという考えです。一見すぐには役に立たないものをあえて学ぶこと。それこそが心を豊かにし、人生の「休日」を充実させると本書は説きます。学校教育は、人が平日や労働の日々をより良く生きられるようにする営みだと考えられがちですが、本書は、その手前にある「休日」の人生そのものを、これまでの教育が置き去りにしてきたのではないかと問いかけます。学ぶことを、ただ働くための準備に閉じ込めてしまってよいのか。この「休日のための教育」という発想の射程と、それを支える教育史のたどり方は、ぜひ本書で確かめてみてください。

「学ぶ意味」を問い直すと、世界が少し広がった

この本を読んでから、学びへの向き合い方が変わりました。以前は何かを学ぶたびに「これは何の役に立つのか」と無意識に値札を貼っていました。今は、すぐに役立たないものに触れる時間こそ、自分の世界を少しだけ広げてくれるのだと思えるようになりました。仕事に直結しない本を読むことや、知っても得にならない知識に寄り道することへの後ろめたさが、ふっと軽くなったのです。子どもの勉強を見るときも、点数や将来性だけでなく、その子が今まさに新しい世界と出会っている瞬間そのものを面白がれるようになりました。

知らないままなら、ずっと自分を責めていた

この本に出会わなければ、私は教育を「役に立つ人材を作る装置」と思い込んだまま、うまくいかない原因を自分や子どもの努力不足に押しつけていたかもしれません。本書は「それはあなた一人の責任ではない」と説き、明治から現代までの教育の歴史をたどりながら、社会全体の問題として捉え直してくれます。著者の神代健彦さんは京都教育大学の教育学者で、専門は日本教育史。昔の教育学者たちが何を論じてきたかを歴史的にたどってきた研究者だからこそ書ける、地に足のついた視点があります。教育に漠然とした息苦しさを感じている方ほど、深く頷ける一冊です。

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「生存競争」教育への反抗 (集英社新書) 神代 健彦 / 集英社新書

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