← ブックフィード 新書嫁 PR

新書嫁レビュー ・ 約 3 分

遺伝子はDNAだと習ったが、その常識が崩れ始めている

遺伝子の正体はDNAだと、習ったまま信じていた

遺伝子とはDNAのことで、DNAという設計図からタンパク質が作られる。学校でそう習って以来、私はそれを揺るがない事実として信じてきました。生命の仕組みはもうおおむね解明されていて、あとは細部を埋めるだけだろう、と。けれどそう思い込んでいると、生命科学のニュースに触れても、どこか他人事のように流してしまう自分がいました。すでに答えが出た分野に、わくわくする余地などないと感じていたのです。中屋敷均さんの『遺伝子とは何か? 現代生命科学の新たな謎』を読んで、その思い込みが根底から崩れました。私が習った常識は、今まさにひっくり返ろうとしている途中だったのです。

タンパク質を作るのは、DNAのわずか1.5%だった

本書が突きつける数字は鮮烈です。2003年にヒトゲノムが解読された結果、タンパク質をコードしている遺伝子は全ゲノム配列のわずか1.5%ほどしかないことが分かりました。ところがゲノムの約70%もの領域がRNAに転写されているといいます。では、タンパク質を作らないこの膨大なRNAたちは、いったい何をしているのか。ここから「DNAからRNAへ、そしてタンパク質へ」という、長年常識とされてきたセントラル・ドグマに、大きな疑問符がつき始めます。ある読者は、DNAがハードディスクに保存された情報だとすれば、RNAは実際に計算が走るメモリーのようなものだと、本書の内容をたとえています。倉庫に眠る情報ではなく、今まさに働いている主役はRNAのほうだ、というわけです。本書はメンデルの実験から、ワトソンとクリックによる二重らせんの発見という古典的な遺伝学の完成までを丁寧にたどったうえで、その完成された常識が揺らぎ、RNAこそが主役だとする新しい見方へと読者を導いていきます。さらに、獲得形質の遺伝という、一度は非科学的だと否定された古い仮説が再評価されつつあるという話まで、本書では一章を割いて展開されます。

完結した分野が、未完の物語に変わった

この本を読む前の私は、生命科学を「もう答えの出た教科書の世界」として閉じていました。けれど読んでからは、遺伝に関するニュースを目にするたびに、これはまだ書き換えられている途中の物語なのだと、身を乗り出して読むようになりました。セントラル・ドグマでほぼ決着がついたと思っていた世代の読者が、本書で科学に終わりはないと感じ直したという声があります。私もまさに同じでした。完結したと思っていた知識が、実は問いに満ちた未完の領域だったと知った瞬間、世界の見え方に奥行きが戻ってきたのです。確定した事実だと思っていたものが、現在進行形の探究に変わる感覚は、それ自体が小さな興奮でした。

知らなければ、古い常識のまま世界を見続けていた

この本に出会わなければ、私は学校で習ったセントラル・ドグマを最終結論だと信じたまま、生命科学の最前線で起きている地殻変動に気づかずにいたはずです。著者の中屋敷均さんは、京都大学農学部を卒業し博士号を取得した、神戸大学大学院農学研究科の教授です。遺伝学の歴史を一次資料に忠実にたどりながら最新の知見へと橋を架ける筆致は、新書とは思えない充実ぶりだと評されています。自分の遺伝の知識が学校で止まっているという人ほど、その続きを確かめてみる価値があります。

この本を手に入れる

遺伝子とは何か? 現代生命科学の新たな謎 (ブルーバックス) 中屋敷 均 / 講談社

次の一冊 ── 同じ主題「科学」

ぞわぞわした生きものたち 古生代の巨大節足動物 (サイエンス・アイ新書) 金子 隆一 / サイエンス・アイ新書 書評を読む →

← ブックフィードに戻る

遺伝子とは何か? 現代生命科学の新たな謎 (ブルーバックス) Amazon 楽天