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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

失敗し続けた防衛事務次官が教えてくれること

国防のトップに「失敗はない」と思っていた

東京大学法学部を卒業し、防衛庁に入庁。40年近くにわたり、日本の安全保障政策の最前線で働き続け、ついに省の官僚組織のトップ「事務次官」の座に就いた人物——そんな経歴を知れば、「この人は特別な人間だ」という印象を持つのが普通かもしれません。ミスを犯さず、常に冷静に正解を導き出す。そういう人間だけが、国防という重大な職責を担えるのだ、と漠然と信じていました。

その思い込みのせいか、自分の仕事で失敗するたびに、「やはり自分は凡庸だ」という小さな確信が積み上がっていくような感覚がありました。組織のトップに立つような人間は、最初から違う生き物なのかもしれない——そう思い込むことで、自分の失敗にどこか納得していたのです。

ところが本書を読んで、その思い込みは音を立てて崩れました。

舞台裏で語られた「失敗の40年」

本書は、著者が防衛省の係員時代から事務次官を退くまでの約40年を、失敗と冷や汗のエピソードを軸に振り返った回顧録です。自衛隊のイラク人道復興支援活動、防衛庁から防衛省への昇格、そして平和安全法制——日本の安全保障政策が大きく揺れた時代の舞台裏が、当事者の目線で語られています。

中でも印象的なのは、平和安全法制の立法過程における場面です。著者は、組織として決定した立場を体現するために、自分自身の主張とは逆の立場で政治家と対峙せざるを得なかった経験を率直に語っています。自分の信念を横に置き、組織の論理を代弁して議論の矢面に立つ——そうしなければならない局面が、官僚の仕事には幾度となくあるということを、著者は隠すことなく描いています。

本書にはさらに、南スーダンPKO日報問題の渦中にいた著者の視点や、防衛庁が防衛省へと正式に昇格した瞬間の舞台裏など、外から見えない省内の記録が詰まっています。ぜひ本書で確かめてみてください。

「自分の失敗は凡庸の証だ」という確信が揺らいだ

この本を読む前と後では、「失敗」というものへの見方が変わりました。以前の私は、組織の中で失敗することを「能力の欠如」の証拠として捉えていました。ミスをする人間は努力が足りない、または素質がない——そんな考えが、自分の失敗体験を過度に重く受け取らせていたのだと思います。

ところが本書を読み終えると、その見方はひっくり返りました。日本の国防を担う省の官僚として最高位まで登り詰めた人物が、40年間ずっと「冷や汗」をかき続けていたという事実。組織の意思決定の中で自分の考えと相反する立場に立つことを余儀なくされ、それでも粛々と職責を果たしてきた。そういう人間が存在するということを知ったとき、「失敗することそのものは恥ではない」という当たり前のことが、初めて自分の腹に落ちた気がしました。

もちろん著者は優秀なキャリア官僚であり、40年かけて頂点まで登り詰めた人物です。しかしその頂点においてなお「冷や汗」をかき続けたという事実は、失敗と向き合いながら前進することが「普通の姿」であると再確認させてくれます。日々の仕事で迷い、悩む自分を、少し遠くから眺め直せるようになった気がします。

国防の重責の中で人間だった人が、書いた一冊

東京大学法学部卒業後、1981年に防衛庁へ入庁。防衛政策局長、大臣官房長を経て、2015年から2017年まで第31代防衛事務次官を務めた黒江哲郎だからこそ書ける内幕が、この本には詰まっています。国家の安全保障という重大な責務の中でも、組織人として迷い、折り合いをつけ、それでも前進してきた人間の正直な記録です。国防というきわめて特殊な行政領域に生きながら、その本質においては「普通の人間の格闘」があった——それがこの本の核心です。

この本を読まなければ、「官僚のトップは別格の存在だ」という思い込みを持ったままだったと思います。

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防衛事務次官 冷や汗日記 失敗だらけの役人人生 (朝日新書) 黒江 哲郎 / 朝日新書

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