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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

「野球はアメリカが生んだ純粋なスポーツだ」という思い込みが、ベースボールがアメリカの不安と夢から意図的に作られた壮大な神話だという事実を見えなくしていた

「ベースボールはアメリカの農村から自然に生まれ、国民的スポーツへと発展した純粋なスポーツ文化だ」とずっと思っていた

野球といえば、アメリカの草原でボールを打ちながら育まれた素朴な遊びが国民スポーツに発展した——そういう起源イメージがありました。甲子園の高校野球もMLBも、「野球はスポーツとして自然発生的に普及した」という感覚がその前提にありました。アメリカ人が野球に熱狂するのは、そのスポーツとしての面白さが理由だと思っていました。

でも、「なぜ野球だけがアメリカの国民的スポーツになったのか」「なぜアメリカ人は野球に特別な感情を持つのか」という問いへの答えが、「面白いから」だけでは腑に落ちないままでいました。野球にまとわりつく「神話的な雰囲気」の正体が見えないままでいました。

内田隆三著『ベースボールの夢』を読んで、その正体がわかりました。

ベースボールは自然発生ではなく、フロンティア消滅後の白人ミドルクラスの「不安」を癒すために作られた壮大なスペクタクルだった

著者が本書で示す核心は、ベースボールが20世紀への転換期に、開拓フロンティアの消滅と都市化が同時進行した時代に、衰退の波にさらされていたミドルクラス白人の不安を癒す「夢」として、数々の神話や幻想を意図的に織り込みながら作られた壮大なスペクタクルだという事実です。「古き良きアメリカの農村」というイメージを球場の中に再現することで、産業化と都市化の波に飲まれる人々が「田園のアメリカ」を疑似体験できる装置として、ベースボールは国民的スポーツへと育てられました。

特に印象的なのは、ベースボールのルールの発展において「男らしさ」が強調されていった過程です。フロンティアの消滅によって「男の証し」を失いかけた白人男性の不安が、野球というスポーツの中に投影されていきました。ベーブ・ルースが「ホームランという豪快な一打」で時代の英雄になったことも、単なるスポーツ的才能だけでなく、時代が求めた象徴的な「男らしさ」の体現だったという著者の分析は目からウロコです。本書にはさらに、ベースボールの起源をめぐる神話の形成過程と、資本主義とアメリカの夢の軌跡が詳しく描かれています。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。

スポーツを「文化の反映」として読む視点が生まれた

読む前と後で、スポーツへの向き合い方が変わりました。以前はスポーツを「競技の面白さ」として純粋に受け取っていました。でも今は、「このスポーツはどのような社会的背景から生まれ、誰のどのような欲求に応えているのか」という問いを持つようになりました。

具体的には、甲子園の高校野球を見るとき、「あの熱狂はスポーツとしての面白さだけで生まれているのか、それとも日本社会の何かを体現しているのか」という問いが浮かびます。MLBの試合前に「国歌斉唱」が行われることも、野球とアメリカのアイデンティティが深く結びついていることの表れとして見えるようになりました。スポーツを「文化のテキスト」として読む眼が、本書を通じて養われました。

東京大学大学院教授が社会学の視点からベースボールとアメリカ文化の関係を解明した

内田隆三は東京大学大学院総合文化研究科教授として社会学・文化社会学を専門とし、「探偵小説の社会学」など文化現象の社会学的分析を手がけてきた研究者です。スポーツ史・社会史・文化史を横断してベースボールの誕生を論じる本書は、「なぜアメリカ人は野球が好きか」という問いへの、意外で深い答えを提示しています。

この本を読まなければ、ベースボールを自然発生したスポーツとして受け取ったまま、フロンティア消滅後の白人ミドルクラスの不安から意図的に作られた国民的神話という実像と向き合う機会を持てないままでいたでしょう。

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ベースボールの夢: アメリカ人は何をはじめたのか (岩波新書 新赤版 1089) 内田 隆三 / 岩波新書 新赤版

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