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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

「冷戦が終わって世界は平和に向かった」という楽観が、新たな対立の構造を見えなくしていた

「ベルリンの壁崩壊と冷戦終結で、世界は平和と繁栄に向かっていくはずだった」とずっと思っていた

1989年のベルリンの壁崩壊、そしてソ連の解体——あの時代、「東西対立という20世紀最大の緊張が終わった」という感覚がありました。民主主義と市場経済が勝利し、世界は対立よりも協調の時代へと向かっていく。そういう楽観が空気として漂っていて、国際政治の問題はもはや経済と外交で解決できるものになると思っていました。

でも、冷戦後に起きたのは「平和の配当」ではなく、民族紛争の頻発でもなく、南北問題の深刻化でした。なぜ世界はまだこれほど不安定なのか——その問いに、冷戦の終結という単純な物語では答えられないと感じていました。

武者小路公秀著『転換期の国際政治』を読んで、その問いに正面から向き合う視座を得ました。

冷戦後の世界は「新たな対立の構造」の始まりだった

著者が本書で描くのは、ポスト冷戦時代の国際政治が単純な平和への移行ではなく、覇権構造・南北格差・エスニックな対立という新たな複合的な緊張を孕んでいるという現実です。東西冷戦の終結は、それが抑え込んでいた別の対立を解放しただけかもしれない——そう著者は示します。

特に印象的なのは、「エスニック集団の目でみた国際政治」という章です。国家単位で語られてきた国際政治が、民族・宗教・文化的アイデンティティという視点から見ると全く異なる地図を持つことが示されます。西欧近代国際社会が前提としてきた「国家中心主義」への問いは、冷戦後の世界が直面した数々の紛争の根底に流れるものでした。本書にはさらに、人権をめぐる南北の国家と市民社会の対立、国連の役割についての分析が続きます。ぜひ本書でその全貌を確かめてみてください。

「世界のニュース」を見る目が立体的になった

読む前と後で、国際情勢のニュースへの向き合い方が変わりました。以前は紛争や対立を「その国の事情」として個別に受け取っていました。でも今は、覇権構造・南北格差・民族的アイデンティティという三つの視点を持って読むようになりました。

具体的には、地域紛争のニュースを見るとき、「これは国と国の対立なのか、民族と民族の対立なのか、あるいは富の不均衡が引き起こしているものなのか」を考えるようになりました。冷戦という分かりやすい地図が消えた後、世界を理解するための複数の視点が必要になったと感じています。単純な「善悪」や「勝ち負け」では語れない構造を意識することは、日本が国際社会でどう立ち振る舞うべきかを考えることとも直結しています。

また、「なぜ国際機関はもっとうまく機能しないのか」という問いにも、答えが見えてきました。国家中心主義の枠組みの中で動く国連は、民族紛争や南北格差という国境を越えた問題に構造的な限界を抱えている。本書を読んで以来、国際機関への期待と批判の両方が、より根拠を持って語れるようになりました。

国連大学副学長を務めた国際政治学者が、ポスト冷戦の本質を問うた

武者小路公秀(1929-2022)は学習院大学卒後、パリ大学・プリンストン大学に留学し、国連大学プログラム担当副学長、明治学院大学教授などを歴任した国際政治学者です。人間の安全保障と反差別の研究で知られ、世界平和の構造的な問いを追い続けた著者ならではの、冷戦後の世界への鋭い見立てが本書には凝縮されています。

この本を読まなければ、「冷戦後は平和の時代」という楽観のまま、世界が抱える新たな対立の構造を見落とし続けていたでしょう。

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転換期の国際政治 武者小路公秀 / 岩波書店

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