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新書嫁レビュー ・ 約 3 分

「魔女」は架空の存在だったが、「魔女狩り」は本物の殺人だった

魔女狩りは「中世の無知と迷信」が生んだものだと思っていた

魔女狩りと聞けば、暗黒の中世ヨーロッパで無知な農民が行った狂気のような行為として、教科書で習った記憶があります。魔女など存在しないとわかった「啓蒙の時代」に入れば、自然と消えていったのだろうと。しかし実際には、魔女狩りが最も激化したのは15〜17世紀——ルネサンスが花開き、宗教改革が起き、「近代」が始まったまさにその時代でした。そして魔女狩りを主導したのは、無知な民衆ではなく、教皇・国王・貴族・大学者たちでした。

魔女裁判は「政治的・経済的活動」でもあった

森島恒雄がこの本で示すのは、魔女狩りが単なる迷信の産物ではなく、計算された権力行使の側面を持っていたということです。魔女裁判で有罪となった者の財産は没収され、その一部が告発者や裁判官に入る仕組みがありました。密告、拷問、強制自白——一度「魔女の疑い」をかけられれば、無実を証明する方法はなく、拷問に耐えられなければ何でも「自白」してしまいます。

本書が特に衝撃的なのは、魔女狩りが「古い迷信の時代」の産物ではなく、宗教改革後の思想的緊張の中で激化したという指摘です。プロテスタントとカトリックが対立し、社会不安が高まる中で、「魔女」は社会の不安と憎悪を集中させる格好の標的となりました。ルター・カルヴァンといった宗教改革者たちも魔女の存在を信じ、迫害に積極的でした。魔女裁判が終焉を迎えるのは近代国家の台頭によるもので、「啓蒙による消滅」という単純な話ではありません。詳細は、ぜひ本書で確かめてみてください。

「無知が差別を生む」という説明が不十分だとわかった

この本を読んでから、社会の中で特定の集団が迫害される現象を見るときの視点が変わりました。魔女狩りの教訓が示すのは、「教育を受けた人々が無知な民衆に信じ込ませた」という単純な構図ではないことです。指導者・知識人・権力者が積極的に関与し、経済的インセンティブがあり、法的な手続きを踏んで行われた——これは「文明」と「野蛮」の問題ではなく、人間と権力と恐怖がどう絡み合うかの問題です。

ホロコースト、文化大革命、現代の各地での迫害——共通する構造があります。「こういうことが起きるのは無知な社会だから」という安心感は、魔女狩りを見ると崩れます。高度な教育と理性を持った人々の社会でも、条件が揃えば同様のことが起きうる。その認識は不快ですが、歴史から目を逸らさないための基本的な視点です。

科学思想史の泰斗が描いた、「近代の闇」

森島恒雄(1903〜1987年)は大阪府生まれ。京都大学文学部卒業後、龍谷大学教授として科学思想史を専攻し、『科学精神の歩み』『ガリレオの生涯』などの著作を発表した歴史家です。ガリレオ研究を通じて「科学と宗教の衝突」を生涯のテーマとした著者だからこそ、魔女狩りという「理性の時代に起きた狂気」の本質を鋭く描けました。本書は1970年の刊行です。

この本を読まなければ、魔女狩りを「中世の無知」として片付け、それが近代と同じ条件下で起きうる問題だということを見逃していたはずです。「啓蒙されれば野蛮は消える」という楽観主義への、静かな反証がここにあります。

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